2007 年 WRC の最終戦、第 16 戦ラリー・グレートブリテンがイギリスのウェールズで行われた。グレートブリテンと言えば雨に霧、そしてグチャグチャに荒れた泥の路面が風物詩だが、今年もその例に漏れずに、大雨と濃い霧が大発生と天候は大荒れ。ある意味これぞ由緒正しくも厳しいコンディションのラリーとなった模様。
その 2007 年最終戦を制したのは、フォード・フォーカスRS WRC07のミッコ・ヒルボネン。レグ 1 ですでに十分なリードを築き、その後も安定した走りでアドバンテージを守りきって堂々の優勝。これで今季 3 勝目、WRC 通算 4 勝目をマークした。
総合 2 位は、マーカス・グロンホルム(フォード)。第 14 戦のラリー・ジャパン終了時点でドライバーズポイントランキング 2 位のセバスチャン・ローブ(シトロエン)に 6 ポイントのリードを築いていたグロンホルムだが、第 15 戦アイルランドでクラッシュにより痛恨のリタイア。アイルランドで優勝したローブに逆転され、逆に 6 ポイントのリードを許すことになった。もしこのグレートブリテンで優勝したとしても、ローブが 5 位以内に入れば逆転王者は不可能という、いつものローブの走りを考えると猛烈に厳しい状況で迎えた最終戦だったわけである。それを悟ってかどうかは知らないが、本来のキレ味鋭い走りは最後まで見られなかったのが残念。今季かぎりで引退を表明しているグロンホルムは、このグレートブリテンが自身のキャリアにとっても最終戦であった。最後を勝利で飾れなかったのはファンとしては大変残念だが、しかしこれもまたラリー。一説によると、来期もスポットという形で WRC に参戦するのでは、という噂もある。まだまだ十分、世界最高峰の戦いの場で争える力はあると思うのだが。
総合 3 位にはローブ。この結果も予想通りというかなんというか。5 位以内で走りきればそれで良しという、ローブにしてみれば楽勝だったに違いない。実際、グロンホルムや後続のドライバーのタイムを眺めつつ、ミスしない程度に最後の最後まで抑制のきいた走りは、まさしく余裕の一言。これで 4 年連続、4 度目の世界チャンピオンの玉座についたわけだ。この記録はかつて「帝王」と呼ばれたトミ・マキネンと並ぶ大記録。まあマキネンが全盛期だった 10 年前とは時代も WRC を取り巻く環境も違うとは言え、素晴らしい記録であるには違いない。
4 位にはペター・ソルベルグ(スバル)。今季は結局最後までマシンのハンドリングと信頼性に自信が持てず、本来の走りが全く出来なかったのが寂しい。今のところ一応はスバルとの契約が残っているソルベルグだが、このままいくとストーブリーグで電撃移籍発表、なんてこともじゅうぶんあり得るような。というよりも、このままダラダラと無意味な時間を過ごしているぐらいならば、さっさとスバルなぞ見限った方がよっぽどマシなのでは、と無責任に思ったり。
以下、総合 5 位はダニエル・ソルド(シトロエン)、総合 6 位はマシュー・ウイルソン(フォード)。7 位にはクリス・アトキンソン(スバル)、8 位はマンフレット・ストール(シトロエン)。
WRC と併設して開催された PWRC(プロダクションカー世界ラリー選手権)では、レグ 1 でガブリエル・ポッゾ(三菱)がコースアウト、リタイアしたことで、ポイントリーダーである新井敏弘(スバル)が 2 度目の PWRC ドライバーズ王者のタイトルを手にすることになった。今季は参加者も増え、非常に厳しい戦いが続いた中での王者獲得は本当に素晴らしい結果である。こうして世界を相手に戦い、そして堂々の結果を出すというのは、一人の日本人ラリーファンとしても、そして同い年のオヤジとしても心から尊敬に値する。なんつっても世界チャンプですぜ。しかも FIA 公認の四輪競技で、さらにこれが二度目のタイトル獲得。すげえ。凄すぎる。ここまできたら来年もタイトルを取って、ついでに国民栄誉賞でももらってほしい。
ということで、今年の WRC サーカスもこれにて終了である。結果から見れば予想通りローブの優勝で終わったわけだが、ニュージーランドでのグロンホルムとの秒差のバトルなど、それなりに面白い場面もあった。しかしグロンホルムがいなくなる来年ははたしてどうか。今季 3 勝を上げ、その安定感と堅実さですっかりポディウムの常連となったミッコ・ヒルボネン、ターマック(舗装路)では時折ローブを凌ぐウルトラタイムを叩き出す、スペイン出身の「カルロス・サインツ二世」ことダニエル・ソルド、今年後半からの猛烈な成長ぶりには誰もが驚いたヤリ・マティ・ラトバラなど、若手ドライバーの台頭も徐々に進んではいるが、ローブのライバルとなるとまだ少し力不足という感じか。
これでペター・ソルベルグとクリス・アトキンソンのスバル勢が絡んでくればもう少しは面白い展開になると思うが、スバルはドライバー云々の前に、まずまともに走る車を用意するのが先決。インプレッサ 2008WRC のデビューは間近いけれど、はたして最初からコンペティティブなマシンに仕上がっているか非常に疑問である。来年からスズキも正式に WRC に参戦するという明るい話題もあるが、さすがに一年目でいきなりトップ争いに食い込むのは、モンスター田嶋氏をもってしてもかなり厳しいだろう。
しかし何が起こるか予測不可能なのがラリーというモータースポーツである。と言うか、何か起こってくれないと、どう考えても来年はローブのぶっちぎりで終わりそうな気がするし、実際そうなる確率は非常に高い。まあローブ以外の誰かが勝つよりも、ライバル不在でやる気がなくなったローブがシーズン途中で WRC を投げ出すなんてことの方がよっぽどありそうな気がするあたりに、昨今の WRC の状況を反映しているわけである。「昔は良かった」などと懐古趣味の爺様みたいなことは言いたくないが、それでも今ひとつ面白くないのも事実。もちろんローブは史上最高の偉大なドライバーだが、その他がこれじゃなあ、というのが正直なところ。あのネット越しにラップタイムを見ているだけで血湧き肉躍るような全開バトルが、はたして来年何回見ることが出来るのだろうか。