爆発的な勢いで自動車が増えている中国。少し前までは高嶺の花だった自家用車も、近年の経済成長による庶民の所得増加や、自動車メーカの熾烈な販売競争による市場価格の下落などによって、最近では普通の勤め人であれば誰でも車が買えるようになった。実際、私を雇用する北京の会社でも従業員の多くが自家用車を持っており、そのほとんどが通勤に使用している。
中国の自動車市場は、少し前までは欧州車(特にシトロエンとフォルクスワーゲン)の独壇場だった。これは市場開放がされた早い時期から中国に進出し、中国国内でいち早く生産、販売を開始したという経緯があるからだが、近年はその座を日本車に譲り渡そうとしている。現在中国ではホンダ、トヨタ、日産、マツダ、三菱、スズキと日本の主要メーカのほとんどが進出しており、燃費の良さ、品質の高さ、その割に手頃な値段が受けて、かなりの勢いでシェアを伸ばしている。実際、私を雇用する会社のローカルスタッフ達も、最近購入した人々の多くが日本車を選択している。
日本車を買った彼らがまず驚くのは、極めて故障が少ないことである。とにかく壊れない。なにせ今まで自分が乗ってきたり人から聞くにつれ、欧州や中国の車は壊れるのが当たり前、また個体差(つまり当たり外れ)があって当たり前。おそらくメーカ側も最初から 100% 完璧な品質なぞ達成できないと、ある種の諦め(というか割り切り)があるのが当たり前。したがってユーザも壊れることを前提に車を購入し、そしてどこかが壊れたらそれを修理しつつ、なんとか完全体として仕上げていくことが当たり前。そういう感覚の目からすると、個体差も初期不良もほとんどなく、乗り続けてもどこも壊れない日本車は驚異的にうつるのだろう。いや同じ日本人として、さらにメーカに勤める技術屋としても、日本車のマスプロダクトとしての品質レベルは見習うところが多々あるわけだが、そもそも「工業製品は壊れるもの」という概念が前提としてある人たちにとって、日本車は非常に優秀に見えるに違いない。
だが極めて優秀な日本車であっても、永久に故障しないということはありえない。また、乗り続ければそれだけ消耗する部品もある。乗れば乗るだけタイヤの溝は減るしブレーキパッドも摩耗する。エンジンオイルやブレーキオイルも劣化する。エンジンのベルトだって交換しなければいつかは切れる。どこにも手を入れないで乗り続けることが出来ることなぞあり得ない。故障する確率は低いとはいえ、メンテナンスは不可欠なのである。
話は変わって、件のエレベータ事故である。きっと今頃日本のマスコミは、鬼の首でも取ったかのようにエレベータ会社を非難する論調で報道しているに違いないが、当の(本国の)エレベータ会社はそんなことを言われても、と困っているのではないか。なにしろ異常があればそれを修理しながら使うのが、彼らにとっては当然のこと。そしてそのためのメンテナンスに(ユーザに)お金をかけてもらうのが当然のことだからである。それはそれでそうなのか、とも思う。車とエレベータで安全のレベルは全く違うが、しかしメンテナンスの必要性はどちらも同じものだ。
しかし事故の起こったマンションでは、メンテナンス会社を毎年のように価格の安い所に変更していたと言う。これでは故障なんて事前に発見出来るはずもない。
痛ましい事故が起きて、そして不幸にも亡くなった人もいる。メーカの責任は追及されてしかるべきである。しかしそれだけで本当にいいのか。定期点検もろくにしていない車を運転して、事故を起こして死者を出してしまった。はたして悪いのは車を作ったメーカだけなのだろうか。日本のマスコミも過去の故障や事故をほじくり返す暇があったら是非ともこういう点にスポットを当てて報道してもらいたいものだが、「正義の味方」という名の弱い物イジメを得意技とするマスコミ様は、そんなことをやっても面白くもなんともないからやらんのだろうなあ。