ル・マン 24 時間耐久レースと言えばご存じの方も多いと思うが、F1 のモナコ、インディ 500 と並んで世界三大レースの一つとして伝統と格式を誇るこの耐久レースは、サッカーワールドカップの陰に隠れてひっそりと、なんてことは全然無くて、今年も 25 万人以上の大観衆を集めて華やかに行われた。どうでもいいが、どうせなら WRC のモンテカルロも入れて四大レースにしていただきたいと思うわけだが、WRC はレースじゃないですかそうですか。
今年のル・マンでの話題はなんと言ってもアウディであろう。アウディが今年投入した R10TDI は、なんとディーゼルエンジンを積むマシンである。その注目のディーゼルエンジンは、V 型 12 気筒 5500cc で最高出力 650 馬力、最大トルクは 1100Nm、そして実用回転域が 3000~5000rpm であるという。高回転までブン回した先にピークパワーバンドがあるというのがこれまでのレーシングエンジンの常識だったが、さすがディーゼルと言うべきか、この低回転域は正に前代未聞。またディーゼルの特性として強烈なトルクが上げられるが、このエンジンの最大トルクもかなり凄まじい。なんでも開発時はトルクが太すぎて駆動系とタイヤが持たなかったらしい。
また低回転ということは燃費にも有効で、耐久レースではかなり有利である。実際、アウディ R10TDI はすでに今年の 3 月にアメリカで行われた 12 時間耐久レースで、ディーゼルエンジンのマシンとして史上初の優勝を果たしている。下馬評でもル・マンでも優勝する可能性は最も高いと目されていた。
そして先週末に行われた本選で、フランク・ビエラ、エマニュエル・ピロ、マルコ・ヴェルナーの三人のドライバーが操るアウディ R10TDI 8 号車が、トータルで 380 周を走り切り、見事優勝。ル・マン史上初のディーゼルエンジンでの優勝を果たした。その要因は(優勝車ではなく同チームの 7 号車の)マシンがマークした本レースのファステストタイムに象徴される速さもさることながら、ディーゼルエンジンならではの燃費の良さも大きく貢献したようだ。アウディチームは 90 リットルのディーゼル燃料の給油のためのピットインは平均で 14 周に一度で済み、ガソリンエンジンを使用するライバルたちは、それよりも多い頻度でピットストップを繰り返した。ピットワークにかかる時間と頻度がレースの行方を左右する耐久レースにとって、ピットストップは少なければ少ないほど有利。
ちなみにル・マンのコースは一周 13.8km なので、90 リットルで平均 14 周ということは、少なく見積もっても燃費は 2.25km/L ということになる。超高速で全然比較にならないが参考までに F1 マシンの平均燃費は 1.3~1.5km/L だそうで。
ということで、ディーゼルマシンが史上初優勝を遂げた今年のル・マンだったわけである。この優勝を受けて、来年以降はライバル達もディーゼルエンジン化に乗り出す気配は濃厚で、あと数年もするとル・マンに出場するマシンのほとんどがディーゼルマシンということになるのかもしれない。もしかしたら WRC も全車ディーゼルになる、なんて日も遠からず来たりして。
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