「ΑΩ(アルファ・オメガ)―超空想科学怪奇譚」 小林泰三 :角川ホラー文庫
小林泰三の書き下ろし長編。本の帯には“超・ハード・SF・ホラー”とタタキ文句が打たれているが、まさにそんな感じの長編小説。
本作品の主人公は二人いる。まずはプラズマ状の異星人「ガ」。「ガ」の種族は、広範囲・低密度に広がる超高温のプラズマ状態の体を持ち、ある程度自分の体の形や大きさや構造を、自分自身の意志で作り替えることができる。高度な知性があり、膨大なエネルギーを体内に秘めていて、宇宙空間を超高速で移動することもできる。そんな異星人「ガ」は、本人のミスや偶然が重なり、不本意ながら種族内で「落ちこぼれ」になってしまう。「ガ」は名誉挽回のため、種族全体の敵である「影」を追って、地球上に降りてくる。
その途中、「ガ」と「影」の追跡劇に巻き込まれ、墜落した旅客機にたまたま居合わせた諸星隼人が、もう一人の主人公。諸星は奇跡の生還(実際には、「ガ」による恣意的な身体の再生)し、プラズマ状の異星人「ガ」と体を共有し超人に変身、奇怪なキメラ生命と戦うことになる。しかし諸般の事情により超人の肉体を保てる時間は極めて短く、地球時間にして三分間が限度であった。
という背景設定から明らかなように、ウルトラマンがそのままベースとなった作品である。しかし単なるパロディではなく、超人の科学的な必然性がそれなりの根拠をもって説明されているのが SF 的か。ただ諸星隼人(だいたいこの名前からしてどうか)が超人に変身後に敵と戦う時のかけ声が「デュアッ」とか「シュアッ」とかいうのは、面白いがいくらなんでもやりすぎという気がしないでもない。また「影」の支配により出現するキメラ怪獣が、どことなくクトゥルー風、というよりもモロにデビルマン風味(聖書からの引用多数)で、これもまた過去の名作に対するある種のオマージュなのだろうか。
というように舞台背景からしてなんともシュールな設定なのだが、それにもまして登場するキャラクタがどいつもこいつもある種の性格破綻者なのが本作をさらに異様なものにしている。だいたい主人公からして変。一見すると人間の精神と超人の肉体を持つ悩み多き青年という設定なのに、その実、元妻や義理の妹である高校生の女の子に対して異様なまでの執念を持っていて、その執着加減は立派な変質者と言っても過言ではない。また「影」の影響を受けた人間たちの狂気ぶりも強烈。もっともその狂気が空回りした後の行動のばかばかしさ、愚かさが笑いのポイントなのかもしれないが。ともあれ、全登場キャラクタの中で一番まともに見えるのは、間違いなく異星人「ガ」であろう。地球が舞台で地球人の話なのに、イカレ地球人たちよりもプラズマ生物の方が性格的によっぽどマシというのもどうか。
ということで設定や物語の筋としてはかなりぶっ飛んでいるわけだけど、意外なところで笑えて、また意外なところである種の寂寥感も味わえ(特にラスト)、(バカ)SFやホラー、スプラッタなどいろいろな要素がグタグタに入った、ある意味お得な一冊である。ただしグロ系の描写が少なからずあるので、そちら方面が苦手な人はやめておいた方がいいかも。