「封印」 黒川博之 : 文春文庫
ボクサー崩れの酒井は恩人・津村のパチンコ店で働く釘師。ある日苦情に対応したが、以後査察や業者の取引中止が相次ぎ、何者かに身に覚えのない”物”を渡せと脅迫され、ついに津村が失踪する。大阪中のヤクザが政治家をも巻き込んで探している物とは何か。
競馬やカジノの他に麻雀など、ギャンブル業界を題材にした小説はいくつもあるが、本作の舞台はパチンコ。娯楽の王様とでも言うべきこの巨大なギャンブル産業が叩き出す利潤は、年間で数十兆円にものぼるという。その莫大な利権を手にせんとし、パチンコ業界のみならず警察、ヤクザら魑魅魍魎が跋扈する。そうした業界の裏側を精緻に描き、それでいて痛快なエンタテインメントに仕立て上げることの出来る作家は、恐らく著者以外にいるまい。もちろん業界の蘊蓄がいろいろ出てくるが、そういった下世話な興味を満たすだけがこの物語の味わいではない。きっちり作られた、完成されたエンタテインメントとしての面白さがあってこそである。
そして舞台はもちろん大阪。冒頭のパチンコに関する裏事情の説明から始まり、中盤以降は大阪のヤクザを主軸に謎の”物”をめぐっての攻防がハイスピードに展開される。このあたりの人物描写や駆け引きの面白さは著者ならではの味で、随所にちりばめられた大阪漫才のようなギャグを楽しみつつスリリングに進んでいく物語を堪能するのが黒川小説の醍醐味である。いくぶん裏の世界がゴチャゴチャしてわかりにくいところもあるが、終盤まで一気に読まされてしまうのはいつものことだ。しかしほんとにこの人の作品にはハズレがないのが凄いよなあ。
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