「大博打」 黒川博之 : 新潮文庫
身代金に「金塊」を要求する誘拐事件が発生した。受け渡し場所に指定されたのは、大阪湾の海の上。しかし、まんまと「金塊」をせしめた犯人を乗せた船は、タンカーと接触してあえなく沈没。犯人はどうやってその「金塊」を回収するのか。
テンポのいい関西弁と、個性あふれるキャラクタ、さらに誘拐犯と警察官の二元中継で、ラストまでぐいぐいと引っ張っていく筆力は、さすが大阪を舞台とした警察ものを書かせたら日本一の著者である。他の著書と同様に全編にわたって「濃いい」大阪テイスト全開で、事件を捜査する刑事同士、また犯人と誘拐された被害者とのとぼけたやりとりは、正にボケとツッコミの大阪漫才そのもので、大阪弁ならではの会話の妙を楽しめる。中でも一応は誘拐被害者なのに、その状況を楽しんでるとしか思えないジイ様のキャラの立ち方は絶妙。犯人と博打にのめり込みつつ交わすしょうもない会話には笑かせてもらった。まあだいたい誘拐犯人と被誘拐者が博打をすること自体ふざけた状況なのだが。
もちろん笑いどころだけではなく、ストーリー自体もさすがの出来。前半は若干スローな展開なものの、中盤から一気にヒートアップ。特にどう考えても実現不可能と思える誘拐・身代金奪取計画を、犯人が如何にして実行するかというトリックとサスペンスには存分に楽しませてもらった。
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