「揺籃の星」 J.P.ホーガン : 創元SF文庫
ホーガン久々の新作は、ヴェリコフスキー理論を大胆に取り入れた宇宙もの。土星の各衛星に移住し、科学の理想郷を作り上げた「クロニア人」と呼ばれる地球人たち。クロニアの卓越した科学力により構築した革新的な惑星理論を主張するため、はるばる土星から地球を訪れている。その惑星理論とは、金星はかつて木星から分離した惑星の一部だという。そのあまりに突拍子もない理論に、地球人は誰も信じようとしない。しかし木星からは彗星アテナが分離し、地球へと向かっていた。その現実を見てもなお、クロニア人の主張を受け入れない地球人科学者たち。だが当初は地球の近傍をかすめるだけのはずだったアテナは、軌道を変え、一直線に地球に向かってきた。
ホーガンの初期作品の「ガメニアン三部作」のように、従来の学説をバサバサと切り捨てていく過程はなかなか楽しめる。人類や地球の意外な起源を掘り起こして行くという物語の方向性も「星を継ぐもの」を彷彿とさせる面白さ。まあ元ネタがいわゆる「トンデモ」なのでどうなることかと思ったが、細かい理論は省きつつも強引に読者を納得させる筆力はさすがホーガン。ちなみにヴェリコフスキー理論とは要約すると「金星は木星から飛び出し、地球接近時に天変地異を巻き起こした」というもの。詳細についてはここが非常に詳しい。
ただ前半は比較的科学系のやり取りが多かったものの、終盤はまるで「地球最後の日」のような単なるパニックものになってしまったのが、ちと残念。三部作の最初ということで、まずは舞台設定に重きを置いたとも思えるが、しかしこれ以降も科学小説的展開にはなんとなくならないような気がしないでもない。でもまあそこはホーガン、きっと思いもよらない強烈な物語を用意しているに違いない。ちょっと希望的観測が入っているが。
それにしても本作は、使い捨てキャラの多いこと多いこと。場面が変わるごとに次から次へと新しい人物が登場するものだから、ちょっと気を抜くと「こいつ誰だっけ」ってことになる。しかも途中で死んだり生き別れたりで、結局のところ最後に残ったのは誰と誰なのか、今一つよくわからなかったり。まあ主人公とその周辺さえ生き残れば物語は続くわけで、細かいことは気にするなってことかも。
で、第二部が出るのはいつなんだろうか。