先月末あたりから、夜、就寝中に体の猛烈な痒みに襲われ、どうにも安眠できない日々が続いているのだった。
痒みが始まるのは決まって就寝してから数時間後、この時期だと窓の外が白み始める頃合いに、痒みで夢の世界から強制的に叩き起こされるのである。痒い痒い痒い痒い。痒くてたまらない。首筋から背中、腹部、太もも、そして足先とほぼ全身にわたる無限痒み地獄は、たやすく私の精神を崩壊させる。うがー。かゆいっつってんだろチクショー。
と、闇に罵声を浴びせても何の解決にもならない。まずは対象をよく観察し、一体何が起こっているかを確認することが肝心である。掻く手を止め患部を観察してみる。広範囲に皮膚が薄赤くなっている中にポツポツと小さな赤い発疹が散見される。何かのアレルギーだろうか。とすると考えられるアレルゲンとしては、ダニ、ハウスダスト、花粉などの空中飛散物、食物、もしくはなにがしかの化学物質か。だが件の症状は就寝中のみに発生し、日中は特に何ともない。となると、最も疑わしいのは寝具に取り付いたダニ。きっとこいつだ間違いない。となれば試しに寝具をこれでもかというぐらいたっぷりと日向干しし、ついでに布団乾燥機を最強状態で長時間かけ、太陽パワーと熱風の、ダブル地獄の業火で憎き節足動物どもを皆殺しせしめたるのだ。
しかし症状変わらない。相も変わらず明け方に、体のあちこち発疹し、痒み地獄は止まらない。これは困った大弱り。もうどうにもこうにもままならない。このままでは北京に行く前に寝不足で死んでしまう。意を決して皮膚科の門を叩いた私であった。
医者:あー、これ、乾燥肌ですよ。
私 :は?
医者:乾燥肌です。原因はいくつか考えられますが、もしかして、お風呂でボディソープ使ってませんか?
私 :使ってます使ってます(首を振る)。
医者:で、タオルは、ナイロン地の粗いやつ?
私 :粗いやつ粗いやつ(激しく首を振る)。
医者:それでガシガシ洗ってる?
私 :ガシガシガシガシ(さらに激しく首を振る)。
医者:たぶん洗いすぎですよ洗いすぎ。
私 :洗いすぎ洗いすぎ(もげるほど振る)
そうだったのである。昔から体を洗う時はナイロン地の荒布を愛用し、親の敵のようにガシガシと肌を擦っていたのだった。荒布で体を洗うと適度な刺激でスキッとした爽快感が得られるが、そのぶん肌への侵襲度は高く、無用な肌のトラブルを起こしやすい。しかもボディソープも乾燥肌にはよろしくないらしい。ボディソープは汚れはよく落ちるが、洗いすぎると皮膚に必要な皮脂までもこそげ落としてしまい、乾燥肌をさらに促進するとのこと。
言われてみればここのところ、風呂上がりになんだか妙に肌がかさつくと思っていたし、さらに思い返すに、連休中に中野の某宅にお泊まりした時はなんともなかったし、自宅でワインを飲み過ぎて酔っぱらい、そのまま風呂に入らずに寝入ってしまった時も症状は全く出なかった。いやはや、まさか単なる風呂での洗いすぎが、この痒みの原因だったとは。
医者の指示によると、低刺激の石鹸を使い、よく泡立てた後にタオルを使わずに手で体を擦ってみると良いとのことだ。そうと分かればさっそく今日から実践である。はたして私はこの痒み地獄から解放されるのか。