「本人の人々」 南 伸坊:マガジンハウス
金正日からアニータ、デヴィ夫人から田中真紀子、森喜朗までと、有名人総勢七十人を南伸坊が「顔面模写」の被写体になり、本人の身になったつもりで文章を書いた本。雑誌「ダ・カーポ」での連載をまとめたもの。
本書で披露している「顔面模写技」を、著者は「顔マネ」とはいわず「本人術」と呼んでいる。他人の身に可能な限り近づいてみる。本人になった写真を鏡を見るように「見ながら」文章を書く。すると不思議なことに、ごく自然に自分の文章とは違う、「本人」の書いた文が書けるそうである。そんなもんですか、と感心するしかないが、しかし顔面も文体も、どうにも「本人」としか思えないほど似ているからすごい。
それにしたって文章の方はともかくとして、あの三角形のデカイ顔が、どうしたら被写体本人にここまで似るのか不思議でしょうがない。なにせタマちゃんはもとより、梅宮アンナにまでなっているのだ。似るか普通。でも似ている。ほんとに似ている。マイケル・ジャクソンなんて一瞬本人かと思った。
ちなみにその他に登場する本人は、叶美香・中村江里子・田中康夫・アラファト・加藤紘一・瀬戸内寂聴・田岡俊次・日野原重明・清原和博・村上龍・キアヌ・リーブス。さらに椎名誠・養老孟司・カルロス・ゴーン・金正日などなど。なんとも有象無象というか魑魅魍魎というか、真似しやすそうで真似しにくい面々というか。
なかでも個人的にツボにはまったのが村上龍。もう感心するほど顔がそっくりで、そしてインチキくさい文章がおかしくも激似。それと矢沢永吉。そっくり。まあ矢沢自体がヤザワになりすましている、ということなのかもしれないけど。
ところでこれら「本人術」のビジュアル面を支えるカメラマンとスタイリストは、著者の奥さんだそうである。ある意味、真の「本人術士」は、この奥さんの方のような気がしないでもない。