先週の日本への出張やら何やらで語るべき時期をとっくに逸してしまった感があるが、先日の 9 月 18 日は「中秋節」であった。中秋節とは旧暦の 8 月 15 日のことを言い、中国では旧暦の新年を祝う「春節」、建国記念日である「国慶節」と並ぶ一大イベントとして今も根強く残っている。ちなみに旧暦の 8 月 15 日は暦では秋のちょうど真ん中にあたるため、「中秋」もしくは「仲秋」と呼んでいるとのこと。
この風習がいつから始まったかは諸説があるそうだが、少なくとも隋・唐の時代からあることは間違いないらしい。普段は埃っぽい大陸の空も、秋雨によって空気中の埃が洗われて空気が澄み、月が大変美しく見える。古代の中国の人たちが収穫をもたらしてくれた神様に感謝する意味と収穫の喜びをこめて、夜空に浮かぶ美しい月を拝む習慣が始まりだった。しかし時代が経過するに従って、そうした宗教的な意味合いから単に月を鑑賞するというイベントに変化していったというわけだ。
もっとも現在の発展著しい中国では、日本同様に夜でもネオンが煌々と輝き、また林立するビルに遮られてなかなか満月を鑑賞するというようなチャンスに恵まれない。だが月を見ることが難しくなっても、月餅の習慣は今でも色濃く残っている。月餅は中国各地によってさまざまな違いがあるそうだが、代表的なのが蘇式と広式の二種類。このうち日本でもおなじみなのは広式で、キツネ色の皮にぎっしりと詰った餡が特徴である。
月餅は非常に縁起がよい食べ物の象徴といわれ、中秋節に月餅を食べると幸せになると言われている。家族を非常に大事にする中国では家族みなで集まって、月を鑑賞しながら月餅を食べるものが普通だそうだ。年長者が月餅を家族の人数分に切り、一人一切れずつ食べる。つまり月餅はもともと一つを一人で喰うものではなかった。どうりでやたらでかいくせに中身がぎっしり詰まっていて、一つ食べるだけでお腹いっぱいになるわけだ。それでも食いしん坊はどこの国にもいるようで、この時期になると月餅を食べ過ぎて病院に駆け込む人も少なくないとか。
中秋節の前になると、街中のスーパーやデパート、はてはコンビニですら月餅で溢れることになる。大きさから中身の餡の種類、値段などが多種に渡り、あまりに種類が多すぎて素人が見てもどれが良いのか美味いのか判断に困る。そんな過当競争を勝ち抜くために、最近少しでも話題を集めようとしてか、年々高価な月餅が巷をにぎわせている。それらは豪華な装飾を施した箱に恭しく収められていたり、月餅のほかにゴルフクラブや宝石なども一緒につけたりするなど、月餅そのものよりもむしろ外観やオマケの方に力を入れているものも多い。
たとえば今年、天津で売り出したという 99,999 元の月餅(9 は縁起の良い数字)。日本円で約 130 万円という驚愕もののこの月餅は一箱八個入りで、金箔・アワビ・燕の巣・フカヒレなどが入ったという、月餅として美味いのかどうかはわからないが、ともかく豪華版。しかしこれだけで 130 万円もするはずなく、箱の中には重さ 500g の純金でできたキンピカ月餅が入っているという。昆明で販売した月餅は更に強烈で、こちらはお値段 31 万元、日本円にすると 400 万円也。内容的には月餅一箱にデジタルカメラ、ブランド物の酒、高級健康食品、などなどの他に、なんと 100 平米の住宅がプレゼントされるという仕組みだそうな。そんな七面倒なことをするぐらいだったら個別に買えばいいじゃないかと思うのは無粋というもの。 月餅のついでに付いてくるのが粋なのである。よくわかりませんが。
先日の日本出張のおりにも、ちょうど良かったのでお土産として月餅を買って行った。言ってみればこれも「旬」もの。送った相手にはそれなりに喜んでもらえたようだ。ただし持っていったのはもちろん純金月餅も豪華なオマケも何もない、いたって普通の月餅である。来年、もしまた同じ時期に日本に行く機会でもあれば、話のネタに今度はオマケ付きでも買ってみるか。でもそんなもの、誰に渡せばいいのか。
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