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黒川博行の最新短編集。
帯タタキの宣伝文句「喰うか、喰われるか! 命を賭した丁々発止の化かし合い。最後に笑うのは誰か? 関西裏社会に炸裂する7つのノワール」とある通り、既に何らかの悪事を犯している小悪党の主人公が、彼らが日常的に行っている少額を稼ぐ悪事を越えた大きなヤマに挑戦、そしてほんの小さなミスや綻びによってより大きな悪党に飲み込まれたり破滅していく様を描くのが物語の基本的な形式。
と書くと、いかにもハードボイルドな小説を思い浮かべるかもしれないが、単純にそうはならないのが黒川作品の面白さである。作品のほとんどが基本的には「詐欺」を扱った物語であり、悪党が悪党を化かし合うことで犯罪が生まれていくわけだが、なにせ例によって全ての物語の舞台は大阪である。そこで交わされる丁々発止のやり取りの中に、ときおりちりばめられる大阪ならではのギャグセンス。主人公たちが小悪党なのにどこかユーモラスで憎めないのは、まるで漫才のような会話にほだされてしまうからだろうか。おかげで読み進めるうちに彼らに感情移入してしまい、できればこのまま成功してあぶく銭を手に入れてくれ、と応援までしたくなる。
また黒川作品を読むことでの楽しみの一つが、一般にはあまり知られていない業界の裏世界を垣間見ることが出来ることである。これまでにも、たとえば産業廃棄物処理業界やパチンコ業界の裏舞台を題材にした小説があったが、この作品でも自動車泥棒とその横流しの方法や、保険にまつわる詐欺、株式発行に絡む金融・証券業界の暗部、またインチキ占い師の巧妙なやり口など、なかなか興味深い題材が並んでいる。もちろんこれらはフィクションであり、実際の業界裏話はまた別のことなのかもしれないが、いかにも実際に行われている、ないしは行われていそうな犯罪に仕立て上げられているのは、綿密な取材と筆者の筆力の成せる技だろう。しかし毎度毎度、いったいどこからこんなリアルな題材を拾い上げてくるんですかね。
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