「黄金旅風」 飯島和一:小学館
徳川幕府より鎖国令が出される直前の、1630 年代の長崎。他国との貿易で栄えた港町に生を受けた二人の少年。神学校の修道士を半殺しにして裸のまま吊したり、南蛮人と見るや誰彼となく斬りつけるなど、少年時代は悪童として大人達から疎んじられたこの二人は、やがて父の急逝で不本意ながらも代官職を継がされる平左衛門と、火消しの頭領として長崎市民から絶大な支持と信頼を集めることになる才介だった。
当時の長崎は外国貿易の利権を独占したい諸大名や、貿易統制を強めたい幕府の思惑が入り乱れていた。そんな状況のなか、平左衛門は長崎市民の生活を守るために立ち上がる。かつての放蕩息子は、すべてを賭けて巨大権力に挑みかかる。火消しの頭領となった才介も、幼なじみの平左衛門をがっちりサポートする。この二人の活躍を中心に据えて、本書は1630年代の長崎を舞台に、政治的に不安定な当時の長崎で生きた様々な人物を生き生きと描いていた、時代劇版のヒーロー物語である。
「始祖鳥記」や「雷電本紀」で話題を呼んだ飯嶋和一の久々の新作。庶民を人とも思わず自分の欲望を満たすために踏みにじる権力者と、それに対し全身を賭して反抗する人々というメインテーマは、本書も前二作と同様変わりはない。ただし、馴染みのない固有名詞や登場人物の多さ、長ったらしい名前など、時代小説が苦手な人には読み辛いかもしれない。しかも500ページ近い大長編である。だが読み応えは充分。本の帯に書かれている「小説を読む喜びが詰まった作品」というタタキ文句は、正にその通りと言える。
それにしてもこの著者、デビュー以来 15 年でたった 5 冊の作品という寡作っぷりはどうか。もっとも年に 3 冊も 4 冊も大量生産する割に内容の薄い本ばかり書いているどこぞの作家と違い、書かれたものはすべて膨大な資料を駆使した骨太で重厚な小説ばかりだから、どうしても書き上げるのに時間がかかるのかもしれないが、ファンとしてはもう少し作品サイクルを早めてもらえるとありがたいのだけど。次作を読めるのは、はたして何年後だろうか。