中国出張中に噂の「豆腐小僧」を読了。
ただ豆腐を持って立っているだけという、実に無意味な妖怪の豆腐小僧。自分はなぜ生まれ、そしていったい誰なのか。どうして消えずにいつまでも存在するのか。ついでにこの両手に持っている紅葉豆腐はなんなのか。こうした自らに対する疑問の答えを探すべく、あっちへふらふらこっちへふらふら、己のアイデンティティを求めて旅をするという一種の冒険譚である。
この豆腐小僧、すごく可愛いがどうにもアホっぽく、そして猪突猛進という困った性格。とりあえず旅に出たはいいが、行く先々で人間の起こす騒動に不本意ながら巻き込まれ、そして他の様々な妖怪たちと関わり合いになっていく。この冒険の途中で出会う他の妖怪たちも、恐かったり人を脅かしたり殺して食ったりという、いわゆる普通の「妖怪」とは全然違う、どこかとぼけた連中ばかりで、なかなかいい味を出している。また落語か講談を思わせる軽妙な語り口も絶妙で、ところどころにギャグが満載されたストーリーはかなり笑える。
しかしその実、妖怪に対する蘊蓄や知識が随所にちりばめられ、本質的な内容は「妖怪とは何か」にひとつの答えを出す、大変まじめなものである。じつはこの本、京極夏彦の妖怪研究の集大成であると思うのだが、どうだろうか。ちなみに装丁も紅葉豆腐のかたちという凝りようで、裏表紙から表表紙にいたる絵巻風の挿絵も見ているだけで楽しい。あいかわらずビジュアルには大変気を遣う人だ。
そういえば先日、京極夏彦氏は「後巷説百物語」でめでたく直木賞を受賞していたわけだが、どうせならこっちで受賞してほしかった。そうすれば、きっと豆腐小僧も浮かばれたと思う。って、死んだわけじゃないですか。もともと妖怪だし。
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