一度は死に瀕した主人公バロットが、圧倒的な力を身に付けて生まれ変わり復讐に乗り出すという基本プロットはよくあるパターンではあるが、そのガラスのように脆く壊れやすい心を常に支え続けてくれるウフコック(ネズミ型万能兵器)に徐々に信頼を寄せ、絆を深め、愛情を育んでいく、その過程をエンタテインメントの要件を十分満たしながら丁寧に描いていくそのストーリーの素晴らしさ。この物語は手に汗握るエンタテインメントでありながら、少女の成長物語としても実に優れている。
また、この物語世界の設定も非常に面白い。発達しすぎた科学技術の使用が法的に禁止され、緊急事態においてのみ特別に使用が許可されるという「スクランブル-09」。したがって、自らが高度な科学技術の産物であり兵器であるウフコックは、本来存在してはならない存在であり、委任事件担当官として役に立つという「有用性」を示さなければ廃棄処分とされてしまう。なので、どんなに派手なアクションシーンでも、彼らの基本スタンスはあくまで「法に則った行動」であるという点。違法なことは決してしない。というより、できない。あくまで法に照らして自己の有用性を証明し続けなければ、生き延びることができないからだ。このあたりの設定が妙にリアリティがあって、また物語に絶妙な緊張感を生んでいる。これがなかったらきっと、映画「Matrix」みたいにとんでもないことになっていたはず。
さらにこの物語で強烈なのが、文庫本まるまる一冊分を使って書いたカジノでのギャンブルシーン。要するにルーレットやブラックジャックでディーラーたちと延々と勝負しているだけなのだが、ページを繰る手を止められないくらい面白い。実はこのカジノの場面を描きたいがためにこの作品を書いたんじゃないかと思うほど、このシーンは熱い。作者があとがきで告白しているが、このブラックジャック勝負を書いている途中にあまりの緊張感に嘔吐してしまったという。やっぱりそうなのか。
ということで、今年読んだ SF ものでは最高の作品。おすすめです。
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