「天文学者の虫眼鏡―文学と科学のあいだ」 池内 了:文春新書
天文学者である著者が、文学に描かれた自然や科学に関する表現を枕にして、天文学や物理学など自らの専門分野を文化系的な着眼から語るエッセー集。天文や物理の話といってももちろん難解な数式がでてくるわけでなく、ユーモアに富んだ語り口で身近な科学の話題を展開しており、とても読みやすく、かつ楽しく読める。
中でも、「我が輩は猫である」の寒月君(モデルは物理学者の寺田寅彦)と苦沙弥先生(同じく夏目漱石自身)との対話の中に、物理学や天文学の話が随所に見られることに着目したり、藤原定家の「名月記」に超新星爆発の記録や、ハレー彗星の様子、また北極星が現在とは違う位置にあったという記述から地球の自転軸のずれにまで話が及ぶあたりは、文学好きの理系人間には(もちろん理科好きの文学人間にも)こたえられない面白さだ。
あとは、方丈記の書き出しの水の泡の話から、著者の説であるバブル宇宙論に至る章も、宇宙の生成の不思議を説いて中々お見事。またシェイクスピアの劇で有名なグローブ座が、今の劇場とは違って天井がなく、夜の公演では星がみえたことから、劇中で星を指差す仕草の演出ができたというのも興味深い。星が降る夜、オープンな舞台で「マクベス」でもやったらツボにはまりそうですなあ。
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