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「疫病神」、「国境」に続く“疫病神”シリーズの第三弾。自称建設コンサルタントの二宮と、イケイケヤクザの桑原が繰り広げる、関西弁ワールドなエンタテイメント小説である。「疫病神」では産業廃棄物処理、「国境」では北朝鮮が舞台だったが、今回は運送会社、警察、暴力団の癒着を題材に、大阪、奈良、そして沖縄を駆け回る。
二宮の仕事は建設現場の前捌き(通称:サバキ)。要は工事がヤクザや右翼に邪魔されないように、前もって裏組織に渡りをつける仕事である。自身は堅気ではあるものの、数年前に死んだ父親は大阪では名を馳せた筋金入りの極道。したがってヤクザ人に対して一般人と比べるとそれなりに免疫はあるものの、基本的には腕力も胆力もないただのヘタレである。対する桑原は対抗組織との抗争で相手の事務所にダンプで突っ込んだ過去があるほどのイケイケ系武闘派ヤクザ。そのイケイケ桑原にヘタレ二宮が巻き込まれ、罠にはめられた放火容疑で警察に追われヤクザにも命を狙われ、ボロボロになっても、なお狙った金のために生き延びる物語である。
今回は、桑原からやって来た麻雀の代打ちに二宮が嫌々ながら乗ったところから始まり、そこに警察官の贈収賄の事件が絡まり、偽装放火事件の容疑者に仕立てられた挙げ句工事現場で殺されそうになり、桑原に引き摺られて沖縄へ飛び、と物語は次々とスピーディーに進んでいく。「国境」では命からがら冒険した舞台となった北朝鮮の情景をストーリーの傍らで細かく描写していて非常に興味深かったが、今回の舞台である沖縄や周辺の今島の様子もさりげなく描き込まれていて、読んでいて全く飽きることがない。このあたりも作者のエンタテインメント精神が絶妙に発揮しているところである。
こうしたストーリーの妙はもちろんとして、ともかくこのシリーズの一番の読みどころは、この二人の会話シーンにあるだろう。まるでかけ合い漫才の如くボケとツッコミの役割分担をしつつ、ポンポンとテンポ良く進む二人の関西弁が心地良く、至極まじめな会話なのに笑える場面も多い。この二人、仲が良いわけでは全然ない。片方は己の目的(金の掠め取り)のためだけに相手を利用するだけ利用しようと、ヤクザ言葉で時に脅し時に凄み、もう一方は出来るだけ関わり合いたくないと思いながらも、ついつい減らず口をたたく。そこに関西人の“血”であるボケ・ツッコミの「あうんの呼吸」が入り、シリアスな場面でも端から見ると漫才をやっているとしか思えない会話になってしまう。こうした会話の「呼吸」やリズムは、関西という土壌が生んだ文化であり、生粋の関東人の私としては、こういうノリがある意味羨ましい。
もちろんミステリとしても秀逸。複雑な人間関係や雑多な登場人物、次々に登場する疑惑やからくりが、最後の最後で全て収斂していく手法も見事。上下二段組 400 ページを超える重量級のボリュームながらも、読後感は痛快そのもの。モヤモヤが続いてスカッとしたい人はもちろん、そうでない人にも強力におすすめします。しかしこの人の本にはハズレが全くないのが凄いっすね。