先週の月曜日から金曜日までは新年早々、日本の本社から開発系の人たちが北京に来訪。一週間まるまる使ってあれこれ打ち合わせ。これから約一年半に渡って続くプロジェクトの全貌がようやく見えてきたというところ。連日朝から晩まで、ああでもないこうでもないと双方詰めたおかげでまあまあそれなりの成果は出たと思うが、宿題もたくさん残った。なんにせよ、これからまたクソ忙しい日々が続きそうである。まあこんなご時世、求められるものがあるだけありがたいと思うか、はたまたいい加減たまには少しのんびりしたいと思うか。
土曜日の昼過ぎの便に乗って日本に帰るお客さんたちを空港まで送ったのち、その足で毎年新年恒例の代理店会議に出席。これは年一回の恒例行事で、私を雇用する北京の会社の販売代理店の代表者(総経理クラス)が北京に集まり、私を雇用する北京の会社の去年および今年の動向やこれから販売予定の新製品の説明、現在市場の状況、そこで発生している問題点などを話し合う重要な会議である。肩書き的にはエライ私も当然出席せねばならない。
私の役割は今年発売される新製品に関する一時間ほどのプレゼンテーションと、技術的なアドバイス、各種ヒアリングなど。プレゼン自体は事前にきっちり資料を作ってあったのでつつがなく終了したが、まあこういう集まりは、えてしてクレーム言いたい放題合戦になるのが世の常である。ただでさえ自己主張の強い中国人、しかも中国の会社で総経理を張るという一癖も二癖もある連中が数十人もスクラムを組めば、それはそれは喧しいこと甚だしい。もちろん中には有益な意見や情報もあるけれど、当然ながら文字通り忌憚のないというか、全く遠慮のない辛辣な物言いの方が多い。まあこれも年に一度の私の役目とは言え、やはり猛烈に疲れる。エライ人は心も体もタフでないと、いつか人として崩壊する。
会議もなんとか終わり、夜ともなれば当然宴会。そして中国で宴会と言えば白酒である。最初の乾杯ののち、しばらくは大人しく飯を喰っていたが、場が和んでくると一気に乾杯合戦が開始される。基本的には各テーブルを回り、簡単な挨拶をして乾杯のかけ声とともにショットグラスの白酒を一気に飲み干すわけだが、当然ながらそれだけで終わるわけがない。テーブルを回り終え、やれやれと自分の席に戻ってくると、今度は向こうからやってくる番である。今 回はこちらがホストの身、受けて立つ立場だ。絶対に逃げるわけにはいかない。一人二人ならまだいいが、なにせ今日は人が多い。正に門前列をなすの如く、乾杯待ちの人間が待ち行列を作って待機している。その一人一人と乾杯、乾杯、そして乾杯の嵐。アルコール度数 56 度という強烈な成分が、口腔から食道、胃、そして肝臓を順繰りに焼いていく。
この一週間は連日、日本から来たお客さんと夜は飯を喰いながら飲み続け、しかも最終日の金曜日の夜はなんだかんだで朝の四時までつき合った。寝不足と連夜のアルコール漬けで体がボロボロのところに、更に追い打ちをかけるこの白酒地獄。焼けた胃が苦しみにのたうつように蠕動を始め、限界を超えた肝臓が断末魔の悲鳴を上げる。もういっそこのまま、今ここで突然死でも迎えたいとの思いがよぎる。
そこでふと思い出すのである。そうだスイカだ。昨年のこの席で偶然発見した、無限白酒地獄から救われる唯一の蜘蛛の糸。白酒を飲んですぐに口直しにスイカを喰えば、あの白酒を飲んだ後に口の中にいつまでも残る独特の臭いや胃が焼けるような気持ち悪さが、なぜかすっきりと解消されるというあの魔法。そうだったそうだったあの方法だ。思い出した私は乾杯してはスイカを喰い、そしてまた乾杯してはスイカと交互に繰り返す。さすがに気持ち悪さは完全には解消できないが、それでも何もしないよりはるかにマシ。いつの間にやら目の前には白酒の空き瓶と、そしてスイカの皮の残骸が大量に残されていたのだった。
しばらくは白酒もスイカも、どちらも当分遠慮したい私である。