本日は元宵節。新月で始まった春節(旧正月)は、年が改まった最初の満月である今日が正月最終日となる。ここに三日は文字通り鳴りを潜めていた爆竹や花火も、おおっぴらに打ち上げられるのは今日が最後なので、夕方ごろから早くもあちこちで盛大な音を響かせている。
現在のところ週に二回、会社勤務が終わった後に中国語の語学学校に通っている。本来なら先週から始まるはずだったのだが、東北地方出身者の老師(先生)が正月で帰省したはいいが帰りの列車のチケットが手に入らなかったそうで、今日が新年最初の授業となった。
授業が終わった午後九時。学校のある建物を出ると、いきなり正面のビルが紅蓮の炎と黒煙に包まれているのが目に飛び込んできた。うおっ。なんだこれは。一瞬、元宵節のアトラクションか何かと思ったが、違う。高層ビルの上部三分の一が真っ赤な炎に包まれ、真っ黒の煙が猛烈な勢いで吹き出している。火事だ。奇天烈な形をした CCTV 新社屋ビルの北側にある建物だから、たしか外資系ホテルが入る予定のビルだったか。
学校のあるビルから火災現場までは、三環(北京の環状道路)を超えた 200m ほどの距離のはず。とりあえず身の危険は感じないものの、しかし夜の暗さとビルの高さが相まって遠近感が狂い、距離感覚が良く掴めない。三環の高架下の道路に出ると、人々が走っていく。火事見物だろうか。サイレンを響かせて続々と消防車も集まってくる。大丈夫かと思い、すこし歩いて現場に近づいてみる。すでに消火活動は始まっているようだが、火が噴き出しているのはビルの上部だから、放水が全然届いていないように見える。梯子車は何をやっているんだろう。というか、北京に対高層火災用の消火設備なんてあるんだろうか。
しばらく見ていると炎はますます勢いを増し、ビルの半分から下にまで延焼が広がって来た。ビル上部ではときおり何かが爆発しているようで、ビル側面からきのこ雲のような黒煙が噴き上がる。同時に火に包まれた瓦礫や火の粉がバラバラと落ちてくる。公安(警察)による道路封鎖も始まったようだし、さすがに少し危険を感じたので帰宅することにした。
我が家は火災現場から大通りを真南にまっすぐ 2km 弱のところにある。ときおり振り返って見てみるが、CCTV新社屋ビルの陰に入って直接は現場を見ることが出来ない。しかしビルの隙間からチラチラと炎が見え隠れする。たしかあのビルはまだ建設途中だったはずだが、内装などはすでにある程度進んでいたのだろうか。それにしても延焼が異常に速いように思われる。建設半ばとはいえ、スプリンクラーなどの消火施設は稼働していないのか。
帰宅して、早速テレビをスイッチオン。CCTV と 北京 TVをザッピングしつつ、ネットで中華系のニュースサイトをチェックしてみる。しかしテレビは元宵節のしょうもない演芸番組ばかりで、速報も何も入らない。ニュース番組も見てみるが、こちらも情報は全く無し。これが日本のテレビだったら特番を組んで大騒ぎになるところだろうが、これも情報統制の一環なんだろうか。
ネットの方にはポツポツと第一報が流れ始め、youtube にも早くも北京市民が撮影した動画がアップされている。粗い画像なので詳細はよく分からないが、なにせとんでもなく大規模な火災だということはわかる。公安が周囲を封鎖しているとはいえ、早めに現場を離れて帰宅して正解だったかも。
しかしこれ、どう考えても全焼だろうなあ。失火の原因は花火の火が燃え移ったらしいとのことだが、来年は旧正月の爆竹や花火も大幅な規制が入るかもしれん。
それにしてもこんなわずかな時間であれだけ燃え広がるとは。やはりろくに防火設備なぞ設置していなかったに違いない。中国でこの手の高層ビルに入る機会はあまりないけれど、こういうのを目の当たりにすると激しく不安になる。脱出経路はちゃんと確認しておかないといかん、と思うのである。