燻り続けていた火種がついに爆発した。
3 月 10 日にチベット・ラサで発生した僧侶に対する公安、武装警察(ちなみに武装警察とは、中国共産党中央軍事委員会の指導下にある準軍備部隊であり、ようするに軍隊)の武力鎮圧に反発する形で、昨日 14 日、ついに大規模な暴動に発展してしまった。正に今、ラサが炎上している。
11 日にも発生した抗議デモは催涙弾で制圧されたようだが、その後に起きた数千人規模のデモ隊と武装警察が衝突。国営の新華社通信は死者が 10 人でいずれも市民が巻き添えになり焼死したと伝えた。死亡した 10 人には、ホテル従業員 2 人、商店経営者 2 人が含まれているという。このほか、暴動で多数の警察官が重傷を負い、放火などにより 40 カ所で大規模な火災がおきるなど、計 160 カ所で炎が上がった。さらに、各所で略奪が発生。同自治区公安によると、「無実の市民が殺害された」と当局による鎮圧の正当性をアピール。アメリカやヨーロッパ各国をはじめとした国際社会の懸念が一気に強まる中、自治区司法当局は騒乱に関与した者に対し、自首するよう通告した。
日本のメディアでどういうように報道されているか私はわからないが、とりあえず我が家のマンションで見ることの出来る NHK ワールドプレミアムでのニュース報道では、ほとんど上記の新華社通信そのままの内容、および映像で報じられている。
しかしこれらはあくまでも「国営」の新華社通信が発表した情報を、そのまま垂れ流しているだけということに注意しなければならない。賢明な皆さんはすでにお気づきだと思うが、この国の報道機関同様、日本のマスコミも猛烈にバイアスがかかっている(とくに一部アジア方面)からそのまま鵜呑みには出来ない。
ダラムサラに本拠を置くチベット亡命政府は Web を通して未確認情報として、ラサ暴動での死者数が 100 人以上に達したとする声明を発表したらしい。その多くはデモに参加していた人々で、中国の武装警察による無差別発砲による死亡者だとし、負傷者数も多数にのぼっているという。
ちなみに「らしい」とか「という」というのは、中国からはチベット亡命政府の Web サイトにアクセス出来ないからで、その他ニュースサイトなど二次情報の伝聞によるからである。当然ながら例の「金の盾」で厳しく情報統制されている中国では、チベットや台湾関連の情報の多くに規制がかかっている。海外の「串」を通せばたぶんいけると思うが、善良な在中外国人の手前、あまり変なことをして公安の目にひっかかるのも面白くない。日本にいる方は是非とも私の代わりにご自分の目で確かめてみていただきたい。
ともあれ、大規模な暴動が勃発し、そしてそれを武力による強硬手段で対抗してしまった。「国営」の新華社によれば、暴徒化した人々が放火、略奪の暴虐無人の限りを尽くしているとの印象だが、そもそもは中国によるチベットに対する長年にわたる弾圧と、統一化という名の民族浄化(中国人との混血による民族消滅政策)に対する抗議活動が本質である。だいたい、中国政府が目の敵にしているダライ・ラマ 14 世も、求めるのはチベット独立でなく「高度な自治」だと譲歩を見せている(こうした戦略は生ぬるい、という血気盛んな若い僧が「自治ではなく独立だ」と突っ走ってはいるという側面もあるのだが)。チベットの人たちだって馬鹿ではない(と思う)。独立が現実的に無理なのは、多くの僧侶やチベットの人たちも認識しているはず。中国がほんの少しでも譲歩して、自治と宗教の自由、さらにはチベット文化を尊重する余裕があれば、もう少し別の展開が生まれるに違いない。
しかしついにやってしまった。今までも非公式ながら虐殺の事実は漏れ聞こえてきたながらも、今回は暴力による介入がついに公然のものとなってしまった。国家の意地と誇りをかけた五輪を前のこの大事な時に、絶対にやってはいけないことをやってしまったのである。すでにアメリカ、EU、フランス、イタリアが公式に中国政府に対して抗議を行っている。特にフランスは北京オリンピックへの影響について明言している。いやこれ、ほんとに洒落にならないっすよ。
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