チーム・バチスタの栄光 | |
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アメリカより凄腕のエリート外科医を引き抜き、最強のバチスタチームを編成した大学医学部付属病院。成功率 6 割ときわめて難しいバチスタ手術だが、26 回連続成功させるという奇跡とも呼べる驚異的な成績を収めていた。しかし立て続けに 3 例の患者が術中死してしまう。事故か、ミスか、はたまた悪意を持って引き起こされた殺人事件なのか。窓際外来だけをやって日々を過ごしている万年講師が、病院長の特命を受けてエリート外科医の心臓手術に頻発する術中死の真相をさぐる、というお話しで、先日の日本出張の際に読了。ちなみに本作は第 4 回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
作者が現役の医師というだけあって、医学知識や蘊蓄にまつわるディティールや大病院の医局やその周辺でのドロドロとした人間模様などはさすがのリアリティがある。ただ話の都合上やむを得ずそうなってしまったのかもしれないが、細かなところで妙な設定になっているところも多い。たとえば調査役を仰せつかった万年講師が、大学の講師なのに全く学生教育に関係していないのが変だし、そもそもその講師がやっている「不定愁訴外来」も、一日に五人の患者しか診ないなんて、どう考えてもありえない。いくら患者の話を聞くだけが主な業務だとは言え、日本の大学病院でそんなやり方で成り立つところがあるなぞ、聞いたことがない。アメリカあたりのその手の専門医だったらあるかもしれないけど。
また事件の謎解きもそう意外なものではない。術中三十分ごとに研究のためにサンプル血液を採取しているという設定で、それがある種の密室性をもたらす条件になっていたが(もし手術中に誰かが血液中に毒を注入したらすぐに分かる)、ネタバレになるので細かくは書かないが、いくら血中投与していないとはいえ、あの物質なら必ず血液に何らかの証拠が残ると思う。そのあたりをズバリと調べていけばすぐに解決しそうな気がするし、だいたい術中死を仮に殺人であったとすれば、犯行可能なのはただ一人しかいないのは明らか。
と、読み進むにつれて、もしかしてこれはミステリとしては成り立たないのではと心配していたら、途中からぶっ飛んだキャラ設定の探偵役である厚生労働省技官が突然現れ、それまでのハードボイルド調医学ミステリからいきなりお笑いミステリに変ってしまうのだった。この物語のあまりの変わりっぷりに驚かされる間もなく、その後はこの探偵役を核としてストーリーは突き進み、予定調和的なエンディングまで強引かつ猛スピードで突っ走るわけである。じゃあ今までの調査や前振りはなんだったんだ呆然としてしまうのに、最後にはある意味でのカタルシスを感じてしまうあたりに、この探偵役キャラクタのパワーが凄まじいということか。なんとも妙な小説だが。
それでも、なんだかんだありつつ結構楽しめたのは事実。次回は是非ともこの探偵役を主人公にして小説を書いていただきたいところ。