三谷幸喜の脚本で話題を呼んだ NHK 大河ドラマ「新選組!」が、本日の放送にて最終回を迎えた。近藤勇の斬首で物語の幕が閉じるという演出は、なかなか意味深でドラマティックだったと思う。「井の中の蛙…」のエピソードがこうやって最後に効いてくるとはなあ。
それにしても、前半と後半でこれほど印象が変わった大河ドラマも珍しい。放送が始まった当初は、「新撰組」をベースにした幕末版青春ドラマといった趣で、いかにも三谷作品らしいユーモアと明るさで笑かせてもらった反面、NHK 大河ドラマという重厚さや完成度の高さはほとんどなかった。いったいこれで一年という長丁場をどう乗り切るのか、ちょっとハラハラしつつ見続けていたものだ。
それが芹沢鴨が出てくるあたりから突然カラーが変わる。江戸を離れ、京で新撰組を結成。そして芹沢との決別、そして池田屋事件と、史実通りの新選組自体とまさにシンクロしたような勢いと重厚さに、引き込まれるようにテレビ画面を凝視していた記憶がある。その勢いのピークはやはり池田屋事件の回だろうか。蝋燭の明かりだけを灯した薄暗く、よくもまあこんな複雑な作りのセットを作ったものだと感心するしかない池田屋の中を、新撰組隊士と長州浪士が白刃を戦わせる最高の見せ場である。今まで多くの名作と呼ばれるドラマや映画などで「池田屋」の場面が描かれてきたけれど、今回の「池田屋」だってそれらと同等、あるいはそれ以上に素晴らしく作られていたと思う。正直、私は手に汗を握った。なのに何故か視聴率的には今一つだったらしい。どうしてだ。あんなに面白いもんをなんで見ないのか、俺に言わせれば不思議でしょうがない。
その後、山南敬助の切腹からは時代の激流に取り残される新選組の崩壊をひたすら描いていくわけだが、回を重ねるごとに作品は重く暗いトーンに支配されていく。もっとも後半は主要な隊士も一人減り二人減りし、戦は負け続けで形勢もあまりに劣勢。あるのは「死」と「滅亡」の滅びの美学のみなので、暗い話ばかりになるのは当たり前なのだが、当初の青春ドラマ然とした印象はすっかり変わってしまった。所々に三谷脚本らしいギャグが織り込まれてはいるものの、逆にそれが一層悲しさを増すというか。このあたりの演出のバランスは上手かったと思う。
それにしてもこの作品では、ストーリーが重厚さを増すと同時に演じる役者の顔つきが全く変わっていったのが印象的だった。最終回の一番最後にこの一年を振り返るシーンがあったが、近藤勇役の香取慎吾や土方歳三役の山本耕史、沖田総司役の藤原竜也らの顔つきが最初の頃と最後では全然違うのには驚いた。それはきっと演出という枠を超えて、本当に若い主演陣が成長変化していった結果なのだろうと思う。
なかでも山本耕史なぞは当初こりゃ絶対アカンと思っていたのに、最後の方はどこからどう見ても土方歳三にしか見えないぐらい、堂々とした貫禄すら漂っていた。いやいや見直したよ山本君。今までは「一つ屋根の下」の車椅子に乗ったナイーブな弟役しか思い浮かばなかったけれど、私の脳内ではこれから君は土方歳三に認定だ。私に認められても嬉しくも何ともないだろうが。
で、来年は「義経」だそうである。主演はタッキー。役者としての(というかタレント自体としても)ポテンシャルがどれほどのものなのかよく知らないのだけれども、果たして今年のような驚きを来年も見せてくれるのだろうか。正直言ってほとんど期待はしていないが、とりあえず初回を見て、以降見るかどうか決めますかね。
どうでもいいが、顔は女形だけど足がやけに短いよなこの人。おおっ、だからこその高下駄役。そうなのか NHK。
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