「quater mo@n」 中井拓志 : 角川ホラー文庫
処女作「レフトハンド」では奇想天外なバイオハザードの恐怖を、三作目の「アリス」では脳科学とフラクタル次元の世界をベースにした医学パニックものを描いた著者の、本作は二作目。テーマはネットワーク。
岡山県郊外の新興住宅地の中学生たちの間で次々と発生する自殺と殺人。その謎を追う刑事たちは、市内に引かれた光オンラインのネットワークの存在につきあたる。実はこの市内では、政府のプロジェクトにより各戸にパソコンが支給され、ローカルなネットワークが構築されているのである。そのネットワークの上で、中学生たちは「月の帝国」という独自のネットワーク社会を築きあげていた。
某巨大掲示板の例を挙げるまでもなく、匿名のコミュニケーションが思いも寄らぬ方向に暴走しがちなのは、ネットの世界に住むものなら誰もが知っている通りである。本書に登場する、中学生たちが暗黒世界にハマっていく「帝国」も、元々は善意によって作られたものだった。それがいつしかページ制作者の意図をはるかに超え、参加者たちの意志すらこえて暴走し、ついに現実世界を浸蝕していく。そしてネット内の現実と実世界でのリアルが衝突した果てに見えてくる異様な世界。
まあ難を言えば、中学生どもが揃いも揃って「帝国」にハマりまくるのはさすがにそれはどうかとか(一人や二人はパソコンを使えない奴がいそう)、いくら何でも誰か教師が気がつきそうなもんだろう、など突っ込みどころはなくもないが、それでもネットの世界を取り入れたホラーやミステリは数多あるうち、ここまでリアリティのある怖さを描ききった作品はなかなか無い。ネット世界にどっぷり浸かっていればいるほど、この作品の本当の怖さを味わえるはず。心当たりのある人には是非ともおすすめ。
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