「The S.O.U.P.」 川端裕人 : 角川文庫
北京出張読了シリーズ第二弾。「夏のロケット」ではロケット、「リスクテイカー」で金融工学を題材にした小説に続いて、今度はネットワークの世界を舞台にしてのサイバー SF 系長編小説。
セキュリティコンサルタントとして活躍するハッカー(これは本来の意味でのハッカーだ)、周防巧。引きこもり同然の怠惰な暮らしをおくる彼の元に、悪質な Web サイト改竄をくり返すクラッカーの正体を突き止めてほしいという依頼が入る。そして彼が見つけたのは、かつて自分たちが開発し、世界中を熱狂させたオンライン RPG 「S.O.U.P.」に巣食う、「EGG」という謎のサイバーテロ集団だった。
というあらすじだけだと、なんだか単に流行のサイバーテロ小説のようだが、しかしもちろんそれだけで終わらないのがこの著者の力量である。ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」の正統後継者と言っていいサイバーパンク風味を基本として、「ゲド戦記」の魔術師の戦いの緊迫感、そして「指輪物語」の壮大感と叙情性を詰めこんで、さらに「夏のロケット」や「リスクテイカー」でもおなじみの「仲間との繋がり」をトッピングにしてミキサーにかけたら出来上がった小説、という感じか。
ちなみに題材が題材なので、ネットワークやプログラミング技術に関するかなり突っ込んだ話が多く、しかも細かな説明は少ないので、その方面に疎い人にはいくぶん難解に感じるかも。だが文章自体は平易でわかりやすいから、サラッと流してもなんとかなると思う。もちろん理解して読めばより楽しめるけど。
それにしてもこの主人公の、あまりにもスーパー過ぎるスーパーハッカーぶりには驚く。特に後半、ネットワークにしかけるワームの、そこまでのアルゴリズム設計とコーディング作業をそんな短期間で考え出すなぞ、およそ人間業ではないような気がする。まあそのへんはエンタテインメントと割り切れば楽しめるわけだが、そんな凄腕プログラマなら、うちの仕事手伝ってくれませんかね。ギャラは安いけど。と、私は本気で思うのである。
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