「蕎麦の蘊蓄」 太野 祺郎 :講談社プラスアルファ新書
ここ数年、テレビ番組などでラーメンの人気店がランキング付でよく取り上げられているが、個人的にはやはりラーメンなぞよりも蕎麦の方が圧倒的に好きだ。基本的に麺とツユだけで構成される蕎麦は、単純にして簡素が故に、材料の吟味や作り方一つでまったく別物になってしまうほどデリケートな代物である。しかしきちんと作られたお蕎麦は本当に美味しい。あのツルツルと咽喉に流れていく食感と、かすかな甘味をともなった旨味、香り、それを引き立たせるツユ、そして硬すぎず柔らかすぎない絶妙な歯ざわり。そういう蕎麦に出会った時には、えもいわれぬ幸福感を感じると同時に、蕎麦ほど奥の深い麺はないと思うのだ。
本書はそうした蕎麦のあれこれについて、コンパクトにわかりやすくまとめてある。蕎麦畑から蕎麦粉の種類、蕎麦打ち、蕎麦の歴史まで、これ一冊を読めば蕎麦の蘊蓄が十分に語れる構成になっている。ただ様々な要素をコンパクトに凝縮してある分、いくらか内容が薄くなっている気もするが、これ以上の知識は素人には必要あるまい。巻末に著者自ら食べ歩いて選定したという、全国各地の蕎麦店が紹介されているのだけど、やたらととある筋系の店に偏った選択なのはご愛敬だろうか。
それにしても蕎麦喰いや蕎麦打ちってのは、求道者というか修行僧というか、ストイックなイメージが前面に出てしまうのはどうしてなんだろう。作務衣をバシッと着こなした店主が、苦虫を噛みつぶしたようなしかめっ面で黙々と麺を打っている、みたいな感じで。対するうどんは、おばちゃんがザルでチョイチョイと麺を茹でてるような、あくまでもお気楽なイメージなのに。西と東の文化の違いだろうか。
いやしかし、美味い蕎麦を食いたい。
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