「冥王星はやはり惑星、なおつかつ小惑星とされていたセレスと最近見つかったエッジワース・カイパーベルト天体も入れて太陽系惑星を 12 個にする」だの「いやいや、そもそも冥王星を惑星から外して 8 個にすべきだ」など、なにやら国際天文学連合(IAU)で喧しい議論が続いた「惑星の明確な定義」。いったん「太陽系惑星を 12 個とする」という定義案が提出されたものの、惑星科学の専門家などから「単純に大きさと形だけで決めるべきだ」「明るさを表す等級(絶対等級)で決めるべきだ」などと批判が集中。さらに新提案の「冥王(めいおう)星族」という惑星の新分類法にも大多数が反対しているなど、いったいどうなることかと思われた議論であったが、ついにその結論が出たようだ。
それによると、
- 太陽系の惑星とは、(a)太陽の周りを回り、(b)じゅうぶん大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し、(c)その軌道の近くでは他の天体を掃き散らしてしまいそれだけが際だって目立つようになった天体である
- 太陽系の dwarf planet とは、(a)太陽の周りを回り、(b)じゅうぶん大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し、(c)その軌道の近くで他の天体を掃き散らしていない天体であり、(d)衛星でない天体である
- 太陽の周りを公転する、衛星を除く、上記以外の他のすべての天体(トランス・ネプチュニアン天体と呼ぶ)は、Small Solar System Bodies と総称する
したがって上記の定義より冥王星は、dwarf planet であり、トランス・ネプチュニアン天体の新しい種族の典型例として認識する、つまりは惑星ではないということになった。ちなみに提出されていた決議案についての概要は以下。
(決議案 5A):太陽系の惑星は 8 個、冥王星、セレスなどは"dwarf-planet"、その他は"Small Solar System Bodies"とする→可決
(決議案 5B):5A で水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の 8 天体の属するグループを古典的惑星と呼称する→否決
(決議案 6A):冥王星を trans-Neptune 天体中の新しいカテゴリの典型例とする→可決
(決議案 6B):6A のカテゴリを"plutonian objects"と呼称する→否決
上記の定義案 5A と 6A が可決されたことにより、
- 冥王星(Pluto)は惑星(planet)から除外され、太陽系の惑星は水星(Mercury)、金星(Venus)、地球(Earth)、火星(Mars)、木星(Jupiter)、土星(Saturn)、天王星(Uranus)、海王星(Neptune)の 8 個とする
- 冥王星、 2003UB313、セレス(Ceres)などの、惑星のように丸くて太陽を回っているが軌道を占有していないもの(衛星を除く)は惑星ではなく矮惑星(dwarf planet)と呼ぶ
- 惑星でも矮惑星でもないものは太陽系小天体(Small Solar System Bodies)とする(小惑星(minor planet)は定義されず)
- 惑星から除外された冥王星は矮惑星の中でも海王星外天体(トランスネプチュニアン;trans- Neptunian objects)の代表例と見なす
となり、つまるところ、冥王星は惑星の位置付けから落ちることになったわけである。もっとも冥王星は多の惑星と比べて大きさが極端に小さく、またその軌道も楕円曲率が大きく異なり、さらに黄道面からの傾斜も大きい(斜めになっている)ときて、相当異端的な存在ではあった。以前からはたして冥王星を惑星と呼んでいいのか議論されてきたわけだが、ようやく決着がついたことになった。個人的にも冥王星を惑星とするには甚だ疑問だったので、これですっきりした、というのが正直なところ。
ということで冥王星はトランスネプチュニアンとして新たな定義づけがされたわけだが、冥王星自体には何も変わることはない。太陽から74 億 km から 44億 km 離れたところ(極端な楕円軌道のため距離が変わる)を、今ものろのろ回り続けている。ちなみに冥王星が発見されたのが 1930 年。公転周期は 248 年なので、発見されてからまだ 1/3 しか回っていないことになる。惑星かそうでないか、学術的には大変大きな問題ではある。しかし宇宙的スケールで見ると、なんだかどうでもいい気がしてくる。