日本に帰ってきてから早一年。新しい仕事の関係もあるが、以前日本にいた頃と比べるとやたらと出張が多い。先月は浜松に京都。その前は福島。そして今日は名古屋である。
東京から名古屋は物理的にはそれなりの距離があるが、新幹線、それものぞみに乗れば一時間四十分ほどでたどり着く。なので名古屋程度であれば日帰り出張となるのが普通となる。さくっと行ってさくっと仕事をし、さくっと帰るので小気味良いのは確かだが(もちろんトラブル無しでという前提だ)、事実上行って帰るだけなので旅の旅情もへったくれもない。まあ仕事で行くのに旅情を求めるのが間違っているというのは正論なれど、せわしないこと甚だしい。だが、今回は現地で朝一から予定が入っているので、久々の前泊付き出張と相成った。
とは言え、のんびり列車に揺られてなどとは当然ながら叶わず、会社で一日仕事をし、夕方東京駅発ののぞみに飛び乗った次第である。ちなみに東京駅までの電車が遅れて予約していた便の発車時刻ギリギリになってしまい、文字通り飛び乗った。仕事で使う道具やら何やらの大荷物を抱え、鬼の形相で東京駅構内を端から端まで疾走するはめになったわけだが、これは何の罰ゲームですか。
せっかくの一泊である。晩飯は名古屋に着いてから喰おうと思っていた。名古屋着はだいぶ遅い時間なれど、飯屋の一つ二つはあいているだろう。名古屋と言えば麺類は外せまい。きしめんを啜るか味噌煮込みうどんを噛みしめるか。しかし東京駅を爆走してそんなことはどうでもよくなってしまい、のぞみに飛び乗る直前にホームで駅弁を購入。ついでにビールも二本。
とりあえずビールを一本飲み干し、適度なアルコールで胃が活性化されたのか猛烈に腹も減ってきたので早速駅弁にありつこうかと思ったが、なんとなく思いとどまる。東京駅を発車し、すぐに弁当を喰うのは何やら抵抗がある。勝ち負けで言えば負け。一体誰に負けるのかよく分からんが、発車間もない車内ですぐに弁当をパクつくのは、得も言われぬ敗北感がある。吉田戦車のエッセイに「駅弁は東北新幹線ならせめて大宮、東海道新幹線なら新横浜を通過してから喰うべきである」という記述があるが、確かにその通りのような気がするのだ。
仕方なく座席のトレイに弁当を置き、ただひたすら新横浜に到着するのを待つ。東京から新横浜まで、途中品川駅を経過して約十五分。実家が新横浜の近くである私にとって慣れ親しんだ路線である。しかし長い。とてつもなく長い。今すぐビニール包装を破り捨てて弁当をむさぼり喰らう衝動をなんとか抑えつつ、新横到着を待ち続ける。
そして喰ったのはこれ、鶏づくし弁当 950円也。看板に偽りなしの鶏尽くしっぷりである。鶏好きにはたまらない一品。
車内は出張帰りかこれから出張に行くのか、私と同じようなスーツ姿のおっさんがみっしりと詰まっていたが、新横浜を発車した途端、ほぼ一斉に飯を喰い始めた。おっさんの考えることは皆同じであり、妙に心和む瞬間であった。
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