北京に暮らして早三年。もう、なのか、まだ、なのかは微妙なところだが、なにしろ月日の経つスピードは尋常ではない。いろいろあったこの三年。仕事も暮らしも、いろいろな意味でようやく慣れたというところか。ちなみに任期はきちんと決まっているわけではないが、少なくともあと二年はこの地で生活することになりそうだ。とは言え、なにせ人生は意外性に満ちている。この先どうなるかなぞ、予想は出来るが確定はできない。まあそろそろ、いくつかの可能性を考えておかなければならない頃合いかもしれないが。
ところで北京に来て感じるのは、なにせ雨が少ないということである。一説によると、あと五十年もすれば砂漠に飲み込まれるかもしれない、というぐらいに乾燥したところなので、雨は滅多に降らない。もちろん少ないながらも降ることは降る。それでも夏の夕方、雷鳴とともにスコールのごとくさっと降ってぱっと止むという程度がせいぜいで、この三年のあいだ、一日雨が降り続いたなんてことは数えるほどしかない。
こんな土地柄なので、北京が慢性的な水不足になっているのは当然である。市街地はもとより郊外の山地でもまともに雨なぞ降らないので、ダムは常に渇水状態。仕方がないので遙か遠い山東省から運河を造り、黄河の水を引っ張ってきているのは、たしか NHK でも報道されていたので知っている人も多いだろうか。
ところが当の北京人はほとんどこの事実を知らない。北京北部にある密雲ダムの水を飲んでると思っているようだ。あんなところ、とっくの昔に干上がりかかっているのに何を言ってるんだと言いたいが、そうした事実は何故かほとんど報道されない。確かにテレビや新聞などでしきりに節水を呼びかけてはいるが、なぜ水を大切にしなければならないのかという肝心の部分が抜けているため、一般レベルでは全く切迫感がないのが現状である。北京の水が、厳しい渇水状態にある周辺地区を犠牲にしてまで賄われていることを知っている人は、はたしてどれほどいるのか。
それはともかく、今年は妙である。年の初めの真冬から初春にかけては例年通りほとんど雨が降らなかったが、暖かくなった五月頃からずいぶんと雨の日が多くなったのであった。特に六月はやたらと雨ばかりで、ここは日本の梅雨時かと思うぐらいである。いやまあ、雨が降れば少しは渇水解消に役立つだろうし(ちゃんと集水していればだが)、パリパリに乾燥して埃っぽい空気が湿り気を帯びてありがたくもあるのだが、しかしここまで雨が続くと、何やらかえって不気味でもある。ネットを覗いてみると、北京オリンピックを前にしての降雨実験を連日行っているからだとか、いやいやその実験が失敗して気象環境が破壊された結果だとか、これは何か大きな天変地異の前触れに違いないやら、虚実混じったまことしやかな噂が飛び交っている。まあ真相は単なる気象の気まぐれだと思うが、普通なら滅多に降らないぶん、たかが雨でも人心を惑わす原因にもなる。
北京は今日も夕方からスコールのように激しい雨が降った。天気予報によると、明日も一日、雨。今はあの北京の死ぬほど暑い夏が、なにやら待ち遠しい。暑くなったらなったで、またここに文句を書き連ねることになるのだけれども。
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