「財布が無い!」とかみさんが叫んだのは、先週の土曜日の夜、某料理店で腹いっぱい四川料理を堪能し、さてお勘定となったその時であった。
無いってほれ、カバンの中やらコートのポケット、とりあえずまずは探してみろ。あちこちガサゴソやるかみさん。しかしそこらの地面に至るまで、思いつくところを探してみるが、やはり無い。ええと、まずは落ち着け冷静になれ。こういう時は素数を数えるのだと古から決まっているのだよそれ 1、2、3、5、7、11 と順次 6389 までカウントしたところで、本日これまでの道程を逆順に思い返してみる。
金曜日からかみさんの友人が北京を訪れており、どうせ中華を喰うなら大勢でということで北京在住の友人、知人を交えて四川料理を喰ったのが午後八時頃。この店に来る前には燕沙橋という繁華街をブラブラしていて、そこから店までは歩いてきた。燕沙橋の前は歩いて五分ほどのところにあるスターバックスでコーヒーを飲んでいた。最後に財布を使ったのはスタバで会計した時。お釣りをもらった後は確かにカバンにしまったという。
しかしその後、スタバの店内でカバンの中身を整理し、さらに燕沙橋から四川料理屋に来る間の路上で、さらにもう一度カバンを開けて中身を入れ替えたとのこと。不逞の輩にスラれたことも考えたが、スリに遭遇するほど人混みの中を歩いてきたわけではない。その可能性はかなり低い。となれば、カバンを開けた二度の機会のどちらかで落としたと考えるのが自然である。
財布の中身は現金と日本で発行したクレジットカードが二枚、それと中国の銀行カードが二枚。現金はともかくとして、カードの方は非常にまずい。特にクレジットカードである。悪用に対する保証があるとはいえ、何にどう使われるのか分かったものではない。
まずは来た道を逆戻りして、カバンを開けたと思われるあたりを探してみる。そこそこ人通りのあるところなので、落ちたままの状態で放置してあるとは考えにくいが、一応手分けして捜索。当然ながら無い。あとはスタバだが、すでに営業終了で閉まっていた。よくよく考えてみたらスタバを出る時、もう閉店だからと店員に促されて追い出されるように店を出たのだった。かみさんによると、どちらかというとスタバで落とした可能性の方が高い気がするという。しかしなにせ既に店は閉まっている。現段階で確認する術はない。
ともあれ、最悪の場合を考えて警察に届け出ることにした。近くの派出所に行き、財布を落とした旨を告げて書類を作ってもらう。住所連絡先、パスポート番号に日本の本籍にはじまり、何時頃どこで何をしていて恐らくどこで落としたと思われるのか、財布の中身は何か、財布のブランドと色はどんなか、などなど小一時間ほど細かく聴取され、書類は出来上がった。しかし警官のおっちゃんは愛想は良いながらも半ば形式という感じで、まあ間違いなく出てくることは無いから、それよりもカード類を早く止めた方がいいんじゃないの、とのたまう。全くその通りである。知人でも何人か財布を落としたりどこかに置き忘れた人を知っているが、いずれも出てきた人は一人もいない。現金はしょうがないとしても、カードを悪用されたらそれこそ洒落にならん。派出所を出て速攻で帰宅。
帰宅後、すかさずカード会社に電話した。幸いなことに今のところ不正請求はないとのこと。やれやれまずは一安心である。だが念のためカードは止めてもらう。
それにしても使った形跡がないとはどういうことか。もし私が悪人なら、口座が封鎖される前にとにかく早く使ってしまおうと考えるはず。使われた記録がないとすると、希望的観測としてはまだ誰にも発見されていないか、もしくは良心に溢れた善意の人に拾われたのか、どちらか。ともあれクレジットカードはとりあえず無事のようである。もう一方の銀行カードは ATM で現金を引き出すには六桁の暗証番号が必要なので、まあとりあえずは何とかなるか。明日、スタバが開店する時間にすぐに電話をかけてみることにする。
翌日、スタバが開店した時間にさっそく電話。かみさんが電話したので詳細は不明だが、とにかく「その財布なら今ここにある」という。おお。財布の中にパスポートをコピーしたものを入れておいたらしく、それが本人確定の決め手になったようだ。なんたる幸運。すかさずタクシーでスタバに駆け込み確認すると、まさしくそれはかみさんの財布であった。入っていた現金もカードももちろん無事。素晴らしい。
ということで、なくした財布は無傷のまま翌日に手元に返ってきたわけである。正直言って、こりゃもう戻ってこないと 100% 諦めていたが、まさかこんなに早く、それも何の損害もなく返ってくるとは思いもよらなかった。もちろん財布を落としたかみさんの粗忽さは断罪してしかるべきなれど、とにかく今回はいくつかの幸運に恵まれた。財布を落としたのが閉店間際で人もまばらなコーヒーチェーン店であったこと、落としたと思われる場所をなんとなく憶えていたこと、そしてなにより正直な店員が拾ってくれたことがことのほか大きい。カードはともかく、一般的中国人にとって安くはない現金が入っていたことを考えると、そのまま持ち去られても文句の一つすら言えない。まったくラッキーであった。
ともあれ、結果的にはめでたしめでたしという今回の騒動。昨今なにかと悪評高いこの国ではあるが、民間レベルではまだまだ善意は残っている。なかなか中国だって捨てたものではない、と単純な私は思うのである。
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