進化の設計者 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション) 林 譲治 早川書房 2007-09 売り上げランキング : 6986 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「ウロボロスの波動」、「ストリンガーの沈黙」などの著者、林譲治の進化論をテーマにした SF 小説。先日の日本出張時に読了。
時は近未来。三つの異なる場所を舞台として物語は始まる。一つ目は現在の地球シミュレータをはるかに凌駕する能力を持つスーパーコンピュータによって気象を予測する公的機関。何故か予測が外れ、大型の勢力を保ったまま北海道を直撃した台風の進路を再検討するうち、そこに新たな可能性を発見する気象エンジニア。そんな中で放火事件が起こる。二つ目は高齢化が進んだ住宅街。そこに住む独居老人の死を確認する市の福祉課職員が、警察との共同捜査でホームレスの群れの中に消えたジャーナリストを追ううち、奇妙な環境に適応した猫たちの「城」に行きつく。三つ目は太平洋上に浮かぶ超巨大海上都市。地球温暖化防止に貢献すると同時に、新たな秩序をつくる都市になるはずの未来都市をテロが襲う。一見何の関係も無いこれらの事件に、その背後に共通して見え隠れする影。「人間は神によって設計された」という ID(インテリジェント・デザイン)仮説を信奉するユーレカなる組織。彼らの最終目的とは何か?
「遺伝子の突然変異は頻繁に起こり、環境への適応は従来考えられていたよりもかなり早く行われる」また「環境に適応した新種が勢力を拡大する速度は従来考えられていたよりも早く、旧種をあっという間に駆逐する」といった最新の生物学の仮説を取り入れ、さらに近未来に実現するであろう科学技術をちりばめて、優生学や ID 仮説といった古くて新しい説を唱える組織と対比させることで、この先人類が探っていくべき道を考えされるストーリー。若干蘊蓄くさいというか、まるで科学解説書を読んでいるような部分もあるが、テーマ自体は非常に興味深い。そうした科学所見をバックグラウンドにし、サスペンスとアクションを適度にまぶしたのが本書である。
それにしても本書に登場する女性の強さはどうか。科学者でありながら自ら潜水モジュールを操縦して深海まで潜る。部下を統率する指導力もあり、おまけに美貌も兼ね備えている。なんの訓練も受けていない市井の女子がテロに遭遇したら普通はパニックに陥ると思うのだが、凶悪なテロリストにもなんらひるむことなく戦いを挑む。こんな奴いないだろう普通、とここまで書いてはたと気づくのである。この作者、もしかしてガンダム好きなのかも。そういえば潜水モジュールは手足のついた人型でなんとなくモビルスーツっぽいし、なにより主人公の女性の名前は星良さんだ。せいらさん。セイラさん。おお。
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