怪獣記 高野 秀行 講談社 2007-07-18 売り上げランキング : 9368 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
最近「エンタメ・ノンフ」なるジャンルの本が話題だという。エンタメ・ノンフとは「エンタテインメント・ノンフィクション」の略称である。要するに「面白おかしく読めるノンフィクション」というところだろうか。本書は、そのエンタメ・ノンフの提唱者にして、日本最高のエンタメ・ノンフ・ライターである高野秀行の最新作。
前作「アジア新聞屋台村」は日本の早稲田を舞台にした自伝的小説だったが、本作「怪獣記」は正に著者の王道であるエンタメ・ノンフ、しかも怪獣探しである。いや、こういうことを王道にしている人間は、私の知る限り故・川口浩以外に著者ぐらいしかいないと思われるが、しかしその真剣さと面白さは川口探検隊の比ではない。
本作でのターゲットは、トルコのワン湖で目撃されている「ジャナワール」なる怪獣だ。その幻の怪獣を追って、あの名著「幻獣ムベンベを追え」を彷彿とさせる探検の旅が始まる。だが今回は今までの作品と違って「いないこと」を証明しにいくのがテーマ。著者が追い求めているのは、あくまでも誰も知らないところへ行き、誰も知らないものを見ること。したがって「未知の未知動物」には激しく興味を引かれるものの、「既知の未知動物」には何ら触手が動かない。よってこの「ジャナワール」もすでに(その筋の間では)よく知られた怪獣であるから、本来は管轄外となるところである。しかもジャナワールを見たという数々の目撃談や撮影されたビデオはあまりにインチキくさく、偽物に違いないと思う。しかし何故かひっかかるところがある。それは一体何なのか。確かめるためには現地に行くしかない。それが今回の旅の動機である。
そしてたどり着いた現地で早速ジャナワールの情報を求めて探索行が開始される。だが当然ながら普通の旅で終わるわけがない。そもそもの怪獣探しの前にクルド人の民族問題に翻弄され、対するイスラム復興主義者にもなんやかやとまとわりつかれる。これは筆者の才能の一つであろう、「とんでもないことが勝手に向こうからやってくる」の連続なのだが、旅の最後に最大のとんでもないこと、湖に浮かぶ謎の黒い物体を筆者自らついに目撃してしまう。
いい年こいたおっさんが、大まじめに怪獣騒ぎの真偽を確かめるためにトルコの奥地まで探検しに行く。そしてついに謎の物体を発見する。馬鹿馬鹿しくも面白く、そしてこれほど痛快なエンタテインメント・ノンフィクションがあるだろうか。
ちなみに筆者と私は同い年。もちろん著作を読んでいるだけで人となりは全く知らないが、微妙に感じる妙な親近感は、同世代というだけでは説明できない何かがあるのかも。是非とも一度、どこかで酒でも飲みたいものである。
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