酔いがさめたら、うちに帰ろう。 鴨志田 穣 スターツ出版 2006-11 売り上げランキング : 2687 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
著者は、漫画家西原理恵子の元旦那。今年三月に腎臓ガンで死去。以前から相当な大酒飲みであったらしいが、離婚後に更に酒量は激増。朝から晩までの連続飲酒によりアルコール依存症となり、治療のために入院した病院での生活を描く私小説。
西原理恵子の漫画でも彼のアル中ぶりはたまに描かれていたが、本書にて自らの飲酒習慣について語る節は非常にリアルかつ恐ろしげである。まず朝起きると、とりあえず酒を飲む。しかし前日の酒がまた体内にたっぷり残っているため吐く。それですっきりしてまた飲めるようになり、その後は夜までひたすら飲み続ける。そんな生活を続けていれば体が悲鳴を上げるのは必然である。黄疸で顔は土気色になり、腹水がたまった腹はカエルのように膨れ、寝ている間の失禁(大小ともに)、そして食道静脈瘤破裂によって大量に吐血する。医者にはこれ以上酒を飲んだら死ぬと宣告されても、酒が止められるわけがなく退院すれば再び酒漬けの毎日。
そしてまた血を吐いて病院に運び込まれる。検査をしてみれば当然ながら肝臓も腎臓もボロボロ。脳もアルコールで萎縮している。酒を飲むばかりでほとんど食べ物を口にしないからか、極度の栄養失調により肋骨が自然に何本も折れる。ついでに自然気胸で肺にも穴が空く。実に凄惨なアルコール依存症の実態である。そういえば中島らもの「今夜、すべてのバーで」でも、また吾妻ひでおの「失踪日記」にも、連続飲酒からアルコール依存症、そして入院への経緯が描かれていたが、アルコール依存に陥った人間は皆同じような行動を繰り返し、そして破滅の奈落へと真っ逆さまに落下していくのが怖い。
著者の文章はお世辞にも上手いとはいえないのだが、何とも言えない不思議な味がある。戦場カメラマン時代に、タイやカンボジア、ミャンマーなどでいくつもの死線をくぐり抜けてきたそうだが、そこで得た死生観からだろうか、自分自身を少し上から俯瞰して見ているというか、ある意味達観した感じというか。せっかく愛する家族に恵まれたのに、それでもアルコールに溺れていかざるをえなかったのは、きっと著者がいい加減な人間だったからではなく、ある意味で純粋で脆い人間だったからなのでは。本書を読むとそんな気がしてくる。
それにしてもアルコール依存症とは、なんとも恐ろしいものである。私も酒は好きなので他人事ではない。さすがに朝から飲み続けてそのまま意識喪失、翌日も再び朝から飲むなんてことは無いにしても、宴会や飲み会で飲み過ぎて酩酊したり記憶を無くしたりしたことは何度かある。そう言う意味では私も、もしかしたら危険なゾーンに足を踏み入れているのかも。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。