中国では、あらゆる情報は統制を受けていることがよく知られている。新聞、テレビは言うに及ばず、個人が情報を受発信するインターネットにも検閲システムが取り入れられている。そのシステムとは、「金盾(ジンドゥン)」と呼ばれる巨大検閲システム。共産主義の危険性を訴えたジョージ・オーウェルの「1984 年」に登場する監視システム「テレスクリーン」になぞらえられたり、「赤いエシュロン」「サイバーの長城」などと呼ばれている。"Great Wall" (万里の長城)をもじった "Great Firewall" という呼称もある。要するに中国のインターネットは、国まるごと一つのプロキシに覆われていて、がっちり監視されているというわけである。
この「金盾」は 2008 年の完成を目指しているそうだが、もちろん現在でも稼働しており、日々バージョンアップされているらしい。今のところは Web サーバへの接続では、検閲対象用語をもとに遮断を行なうのが特徴となっているが、今後は用語による検閲のみならず、アクセス元の IP アドレスごとに履歴を解析し、ユーザ各人の政治的傾向を分析した上で接続の可否を判断する推論機能を持たせる予定とのこと。いわばシステム自体を巨大な人工知能まで育て上げるということだ。
さらに「金盾」が強烈なのは、その最終目標がオンライン・データベースと監視ネットワークの統合であり、
そのために音声と顔認識、CCTV(監視カメラ)、スマートカード(IC カード)、クレジット記録、そしてインターネット監視を全てひっくるめた巨大な監視システムの構築であるという点である。当局にとって「要注意」の海外の情報サイトをすみやかに発見し、これに対するアクセスを遮断する。また国内の「不良」情報コンテンツも発見次第ブロックし、公権力によって首謀者を逮捕する。また、単なる「有害」サイトの遮断に留まらず、サイトやメールの文字検閲はもちろんのこと、言語音声情報処理技術により電話による会話などをリアルタイムでモニタリングし、キーワードとフレーズによって検索する。さらには映像情報処理技術によって監視カメラを通じて群衆の中から特定人物の顔を識別するという。つまりこの「金盾プロジェクト」では、実はネット検閲などはその一部でしかない。ネットを含めた社会全般に対する監視ネットワーク網の構築、それがこのプロジェクトの本質である。
正に事実は小説よりも奇なりというか、「1984 年」の狂気をさらに上回るような恐ろしげな計画だが、中国はお上がやれと言えば必ず実行される国。きっと完成は間近いのだろう。
ちなみにこの高度に先進的な人民監視システムは、とても中国独力の技術レベルでは不可能であり、このプロジェクト開発には多くの米系企業、それも IT 系の有名、巨大企業が関わっているそうである。このあたりの事情については文献やネットの情報にあたると非常に興味深いのだが、また別の機会に。
しかしここまで情報統制し、また不穏分子の摘発に躍起になるということは、逆に言えばこうまでしないと国体が保てなくなる恐れがあるという、中央政府の焦りも見えるのである。テレビ、新聞、ラジオは遍く検閲を受け、都合の悪いニュースは決して記事になることはない。しかしネットの世界には玉石混合とはいえ、あらゆる情報が誰もが何の制限もなされることなく存在する。当然そこには中国国内からは全く知ることのない、中国にとって不利益になる情報も等しくおかれているわけである。また急激な経済発展の裏で、都市部と農村、沿海部と内陸部の格差はますます開く一方で、またはびこる腐敗や理不尽な行政などに人民の不満は溜まりに溜まっている。一党独裁で全権を掌握し、人民をその支配下にする人たちにとって、これらどれもやっかいなものであることは間違いない。統制、規制、そして不穏なものは速やかに排除するのも当然である。とまあ、このあたりを長々書くと今晩あたり我が家に公安がやってくるかもしれないのでこのへんでやめておく。えー、共産主義最高!我愛中国!中華人民共和国万歳!これで見逃してお願い。
ところで最近ネットで話題なのが、その「金盾」でサイトがブロックされているかどうかを調べることができる Great Firewall of China | Test websitesである。URL を入力すると、そのサイトが中国のファイヤーウォールでブロックされているかどうか分かるという仕組み。ということで、まずはさっそくうちの「http://cara.pos.to/」を試してみた。結果はめでたく「Your URL available」とのこと。うちのサイトは何かヤバイことを書いているわけでなく、エロでも危険分子でもない(はずだ)。実際中国から問題なくアクセスできるから、とりあえず現在のところは「金盾」のお咎めなしということか。もしかしたら今回の記事でアクセス制限がかかるかもしれないが。
ネットではいろいろなサイトを試した人たちの間で、あのサイトはダメ、ここはオッケーと議論が喧しい。それによると、Yahoo! は com、jp ともにトップページはいけるが、ニュースページはダメとか、読売、毎日新聞はダメだけど、朝日新聞は問題なしなどという結果になっているという。しかし実際には中国国内からでも Yahoo!に関してはニュースも問題なくアクセスできるし、各新聞社のサイトも普通に見ることが出来る。もっとも一時期確かに読売新聞のサイトは見られないこともあったような気がする。「金盾」は日々刻々と設定を変化させているようなので、今見られるからと言って今後どうなるかはわからないのだが。
ちなみに中国からアクセスできないサイトは、私が知る限りでは Wikipedia は全滅、何故か infoseek ドメインもアクセス不可。Google も時折アクセス出来ないことがある。あとは海外の一部サイトが不可だったと思う。ネットでは日本の官公庁や政府機関、自衛隊関連は一切アクセス出来ないという話も見聞きするが、今試してみたら各省庁や政党関連はもとより、陸海空自衛隊のどこも問題なくアクセス出来た。2ch も問題ない。いわゆるところの特亜関連や嫌中関連の板も、とりあえずは普通にアクセス出来るようである。全般的に日本のサイトへのアクセスはかなり重いが、それでも全くアクセス不可能なところは意外に少なく、一般に思われているよりも規制はかかっていないような気がする。とは言ってもこれらのサイトにアクセスする時に、まず間違いなく監視の目が光っているわけである。正直言って気持ちが悪いことは確かだ。
とまあいろいろあるわけだが、この話題についてあまり深入りすると洒落にならない事態にならないとも限らないので、いい加減このへんで止めておきましょうかね。
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