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石黒達昌の短編集。著者は現役の医師・研究者だけあってか、本作には広義の医学を扱った作品が収められているが、そのどれもがうっすらと漂う死の匂いと、科学・医学の営みを静かに淡々と描いたある種の幻想小説のような作品となっている。
なかでも面白く感じたのは表題作の「冬至草」。北海道の寒村に生育し、放射能を帯びていたという幻の植物「冬至草」にまつわる物語で、アマチュア植物学者によって発見され、そして絶滅を迎えるまでの道のりを静かに描いた作品。「冬至草」の驚くべき性質も実に不思議だが、その妖しい魅力に魅せられた植物学者と実験助手が徐々に狂気に陥っていく様は強烈である。さすが表題作の出来。
それと「希望ホヤ」もいい。最愛の娘が小児癌で余命半年と診断されたアメリカの弁護士。医者に見放されても諦めきれず、独力で娘を治すべく医学の勉強を始める。しかしそれは、逆に望みがないということが明らかになっていくだけだった。徐々に癌が進行し、次第に苦しみを感じはじめた娘の願いで南の島へ一家で旅行に行く。その島で偶然「希望ホヤ」に出会う。印象としては地味ながらも、なかなか読ませる科学小説。その他、芥川賞の候補作となった「目をとじるまでの短い間」、まるで報告書のようなそっけなさが逆に妙な暖かみすら感じる「アブサルディに関する評伝」も面白い。帯タタキの「理系小説」という宣伝文句に腰が引けた人にもおすすめ。
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