東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~ リリー・フランキー 扶桑社 2005-06-28 売り上げランキング : 214 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
今や大ベストセラーとなった、リリー・フランキーの初の長編読み物である自伝的小説。もうずいぶん前に読み終わっていたのだけど、備忘録として一応感想を。
私はリリー・フランキーというと、テレビのバラエティ番組でなかなか味のあるコメント(しかもエロ系)を入れる人という認識がせいぜいで、確か週刊スピリッツの巻末だったかで連載している(今も連載中なのかは知らないが)アイドル評のような不思議な文章が、物書きとして知っている唯一の仕事だった。何を生業にしているのかよく知らんけど、たまに顔は見かける。という程度しか知らなかったわけである。それが、けして技巧的ではなくあくまでも自然で淡々とではあるけれど、愛しきものを愛しく温かく描き出す確かな筆力を持っている人だとは。
福岡の小倉で生まれた自身の少年時代を語る前半から、東京での学生暮らし、上京してきたオカンとの共同生活、闘病、そして死へと、時系列に沿って物語は進んでいく。特に闘病から死へと至る中盤以降の展開が、本書の読みどころなのだけど、印象的なのはいくつもの辛苦を乗り切ってたくましく生きていくバイタリティー溢れるオカンの姿だろう。
ろくでなしのオトンのおかげで、小倉では様々な職業につき、親戚の家を転々とし、そして甲状腺ガンを発病する。東京に出てきてからは、息子の友人・知人のために大量の料理をつくり、彼らと楽しく飲み続け、興がのると変装して踊って笑いをとる。苦労を苦労と思わず、辛さをただ笑い飛ばして生きていくオカン。そういえば私の知っている九州のおばちゃんも、みんなそうだ。盆も正月もなく朝から晩まで働き、しわくちゃの顔で豪快に笑い、飯を喰らい、酒を飲み、そして優しい。天草のおばちゃん達は元気だろうか。
この本には生きる喜びと幸福感がつまっている。母親と息子の生活、都会の喧騒に満ちたビルの一室での日常生活のあれこれが、実に楽しそうだ。しかしそれと同時に死へと向かう時間も刻々刻み込まれている。ありきたりなことを普通にやっている、やれていることの楽しさ、そして切なさ。猛スピードで過ぎていく時間の流れに飲み込まれ、細々したことに気を取られつつあくせく働いていると、俺はこの世で一人で生きているような錯覚にとらわれそうになるが、幾人かの大切な人がいて、そしてその中に母親がいるという真実を改めて思い出させてくれた。たまには実家に国際電話でもかけてみようかねえ。
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