いい加減、髪の毛が伸びた。最後に髪を切ったのは北京赴任前の六月の半ばごろだったか。どうせ切るならと、ちょっと短めにしたつもりだったが、それから一ヶ月半にして早くも収拾がつかないほどに伸びた。癖っ毛の剛毛ということを差し引いても、この髪の毛の暴れっぷりはどうか。どうして私の髪の毛はこんなに早く伸びるのだろう。
ともあれ、髪を切りたいのである。早くこざっぱりとしたいのである。しかしここは中国。私の中国語スキルでは、まだまだ自分の希望通りに散髪の注文をするようなは到底至ってはいない。「サイドと襟足はちょっと短めに。あ、でも借り上げない程度に残す感じで」なんて中国語でなんと言えばいいのか。ここは一発、話のネタとしてローカルの散髪屋に行き、床屋氏に気の赴くまま、はさみの進むままにザクザク切ってもらうという手もある。しかし失敗したときのダメージを考えるとちょっとそれも躊躇われる。いっそのことバリカンいっちょで丸刈りにでもしてもらえば失敗も何もないのかもしれない。だが、そうなった時の自分を想像するだけで、我ながらあまりに人相が悪すぎると思う。とても気質の日本人サラリーマンには見えない。道を歩いていて公安に職質でもされたらどうしよう。武装警察に問答無用でしょっぴかれたらなんと申し開きすればいいのか。と考えている間にも髪の毛は伸びる。どうしたもんか。
北京の日本語タウン誌や web で調べてみると、日本資本の美容院が北京市内に何軒かあることがわかった。さらに調べて我が家のすぐ近くにもあるらしい。しかも日本人美容師も常駐していて、もちろん日本語が通じる。料金も他店と比較するとかなりリーズナブル。これだ。さっそく予約の電話をして行ってみた。
くだんの店は、国貿という北京でも有数のビジネス街の、その中の 建外 SOHOという複合テナントビルの一角にあった。中に入るとモノトーンを基調としたコジャレた感じの美容室。これが日本であれば三十過ぎのおっさんが入るにはなんとなく場違いな気がしないでもないが、そこはそれ。ここは北京である。こうなりゃ何でもありよということで美容師氏とご対面。二十代半ばぐらいの若いあんちゃんが担当とのこと。前もって予約の時にお願いしていたから、当然ながら日本人だ。よかった日本語が通じるよ。当たり前だが北京に来てからこっち、レストランでもコンビニでもスーパーでも、どこかの店に入って日本語が通じるなんてことはほとんどなかったから、なんとなく新鮮な感じ。こちらの意向を伝えて、さっそく散髪を開始してもらう。
髪を切ってもらう間に美容師氏といろいろ世間話。この美容師氏は北京に来てかれこれ一年だそうで、だいぶ北京の街もわかって来たとのこと。それでも北京で暮らしているとまだまだ驚くことが多く、私がまだこちらに来て一ヶ月だというと、そりゃこれから大変ですね、と妙な同情をされる。まあすでに大変は大変なんだが、でもこれから生活していくにしたがって日本では想像もつかないとんでも無い目に遭うこともあるのだろう。
タクシー乗車拒否での武勇伝やら近所のラーメンの上手い店情報やら北京の日式美容院業界の興味深い話などを聞いているうちに散髪終了。髪もかなり軽くなってさっぱりした。ちなみに料金はカットのみで 120 元(約 1,600 円)。それでも地元ローカルの床屋なら 10 元ぐらいで散髪してもらえるそうなので、そういうところと比べると高いには高いが、他の日式美容院が 300 元程度かかることを考えるとかなりお安い。腕もそこそこいいし、また次回もここでやってもらおう。
ということで、とりあえずは公安の職質も武装警察の拉致も回避できそうな普通の髪型になった私である。もう少し中国語が上手くなったらローカル床屋にも挑戦してみたいが、ま、それはまた先の話。
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