それにしても中国に来て驚かされたのが交通事情であった。特に交通ルールや運転マナーである。
日本では原則として横断歩道上の歩行者が優先となっており、前方の信号が青でも自動車はその手前で一時停止が義務付けられている。しかし中国では日本と同じように「青信号だから安全」という感覚でいると、とんでもなく危ない目に遭うことになる。とにかく中国のドライバーには「車上位」の意識があるらしく、歩行者がいようがいまいがお構いなしに交差点に突っ込んでくる。したがって、たとえ歩行者信号が青であっても、歩行者は交差点に絶えず進入してくる自動車に注意しながら横断しなければならないのである。つまり、歩行者は自動車が通り過ぎるのを待つか、もしくは車の途切れる合間をうまくくぐり抜けて横断しなければならず、かなりのスリルをともなう。ちなみに現地の人々は強気なものでそんなときでも決して走らない。走っているのは外国人だけである。
こんな状況で一体年間でどれくらいの交通事故の犠牲者が出ているのかと調べてみると、驚いたことに中国の交通事故による死亡者数は年間 10 万人(2003年)。一日に約 300 人が命を落としている計算になる。中国では「毎日大型旅客機が墜落しているのと同じ」と自嘲気味に揶揄しているが、そんなこと言ってる場合かと言いたくなる、正にシャレにならない人数である。
このままではさすがにまずいと感じたのか、中国政府は昨年 5 月に「道路交通安全法」を施行し、厳しい罰則により交通事故の抑制を狙うとともに、ドライバーに対して人命保護や歩行者優先の意識付けを図ったそうだが、なにせ中国における急速な自動車の普及ペースに、交通ルールや運転マナーの普及がまだまだ追いついていないのが現状のようだ。また現地の人に聞いた話では、「高級車の価格の方が人の補償金額より高いから仕方がない」という考えもあるという。何かが激しく間違っていると思う今日この頃である。
しかし中国における自動車数は、経済発展と平行して年々爆発的な勢いで増え続けている。このまま何の対策も講じられないまま自動車の台数だけが増え続けると、年間の交通事故死亡者数が数十万人規模にまで膨らむことだって十分考えられる。まずは交通関連法規の整備や、ドライバーの安全への意識を向上させることが先だが、たとえば各種センサやネットワーク技術を車に組み込むなど、IT を駆使した積極的なアクティヴ・セーフティー化を推し進めることも必要ではないか。このあたりは日本の自動車メーカのお家芸的なところなので、こういう方面を強力な「売り」として全面に押し出せば、中国市場で新たな局面が開かれる気がする。
ともあれ、まずは今日、車に轢かれないようにすることが、私にとって最も大事な案件である。間違っても 10 万人のうちの一人にはなりたくないもんなあ。
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