「エンデュアランス号漂流」 アルフレッド・ランシング : 新潮文庫
1914 年に南極大陸横断に挑戦した英国人冒険家シャクルトン一行 28 名。その遭難から劇的な全員生還までを、乗組員の日記や詳細な取材などに基づき忠実に再現したノンフィクション小説。
いかにもノンフィクションもの然としているというか、文章的には淡々とした進行だが、しかしそこで語られる切羽詰まった状況は十分衝撃的かつ迫真のものだ。現在と違って無線も衛星電話もない時代に、雪と氷に閉ざされた南極で繰り広げられるサバイバル。尽きかける食料や燃料を節約しながら、ただひたすら氷床の上を歩き通す日々。必ず生きて帰って、故郷に残した家族や恋人と再び会う。それだけを生き甲斐に、厳寒の大陸で静かに繰り広げられる男達の闘い様。きっと現代の作家ならもっとたくさん書き込んでしまうだろう数々の出来事だが、ただ事実のみを淡泊に書き連ねることで、逆に生々しさが文章からにじみ出ている気がする。特にラストの生還場面など文章的にはちっとも歌い上げていないのにやたら感動的で、ページを繰るのがおしいほどだ。
それにしても今から九十年も前、ろくな装備も機材もない時代に南極で遭難するなんて、想像するだにすさまじい。本の帯のコピー「これ以上危機的な遭難はない!これ以上奇跡的な生還はない!」は決してオーバーではない。
ちなみに本書でも紹介されているが、エンデュアランス号の乗組員募集の新聞広告コピーがなかなか強烈である。
「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。しかし成功の暁には名誉と賞賛を得る。」
この広告を見て 5000 人もの男が応募に殺到したらしい。そりゃ応募するだろ男なら。だってカッコ良いもの。まあ、寒いところが苦手な私は遠慮しておきますが。
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