「エロイカより愛をこめて (30)」 青池保子:プリンセスコミックス
1970年代より続いている、怪盗・スパイ・お笑い・アクション少女漫画の最新巻。トルコを舞台に、正に迷路のようにストーリーが飛びまくった「ビザンチン迷路」編の最後を収録。
かつての KGB の大スパイ「大鴉」が、ここまでひっぱって来たわりに捕まった後は泣き落としをするタダのじいさんに成り下がったのはやや期待はずれだが、主要な登場人物が大活躍して(ジェイムズ君は暴走しすぎな気も)、最後はやはりいつもの「エロイカ」らしいまとめで大団円という感じか。
ちなみにこの第 30 巻には本編の他に、「エロイカ」シリーズのサイド・ストーリーである「Z(ツェット)」の最終話が収録されている。情報機関に属するスパイと泥棒という、およそ少女漫画には似つかわしくない設定を逆に茶化してお笑いに仕立てた本編「エロイカ」に対し、あくまでもシリアスに特化して描いたこの「Z」シリーズは、東西冷戦下にあるスパイ達の本当の姿を垣間見せてくれて、この漫画の世界設定の奥深さを示す重要な作品だったと思う。
しかし本書の中で著者が語っているように、ソ連崩壊を契機に大きく変化した世界情勢が、「Z」の存在意義を奪ってしまった。このご時世では、ロングコートを着た若き情報部員をネタにシリアスなストーリーで漫画を書くのも無理があろう。本編はもちろん、「Z」もお気に入りだったので、これで最後なのは大変残念だがそれも仕方なしか。若干短いためか、最後の緊迫感の持続が足りない気がしないでもないが、よい締めくくりになっているのではないだろうか。最近は本編での「Z」君の登場回数が減っているような気もするので、これを契機にバンバンご登場願いたい。
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