「二度のお別れ」 黒川博行:創元推理文庫
黒川博行もの集中読書シリーズ。本書は著者のデビュー作で、二十年ほど前のサントリーミステリー大賞で佳作となった作品。当初は文藝春秋社から 1984 年に初版刊行され、その後文庫化されたらしいが、残念ながら両方とも廃版の憂き目に。長らく入手困難な時期が続いたが、最近創元推理文庫からめでたく最復刊。これ以外にも初期の作品が続いて復刊されるそうだ。ありがたいことです。
ストーリーは、その後シリーズものとなる大阪府警の「黒マメ」刑事コンビが主役。大阪市内で、発生した銀行強盗人質事件から一転、身代金請求事件を追う黒マメコンビと犯人とのやり取りがメインとなる。誘拐、警察、大阪と、後の黒川博行作品のエッセンスがぎっちりと詰まっているわけだ。
後の黒川作品と同様、大阪弁の軽妙なセリフ回しが相まって実にテンポ良く物語りは進むのだが、著者自身が後書きで書いているように、事件の真相は中盤あたりでかなり容易に見当がついてしまった 。このあたりの作り込みのヤワさはデビュー作らしいといえばそうなのだけど、「二人集まれば漫才」という関西人の特徴を描く「軽」の部分と、警察内部のチームワークや様々な軋轢、また人質の命よりも金を優先する銀行への当てこすりなど「重」の部分が、物語の中で見事にバランスを取っているあたりは、すでに並の作家ではないことを示している。
ちなみにこの作品の内容が、作品発表の直後に発生した、あの「グリコ・森永事件」と酷似していることから、著者は大阪府警から問い合わせまでされたらしい。もしや犯人(宮崎学?)、この本読みましたか。
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