「てとろどときしん―大阪府警・捜査一課事件報告書」 黒川博行:講談社文庫
集中的に読み進めている黒川博行ものの、今度は軽快な大阪弁の府警刑事の活躍を描く短編集。フグの肝による事故に端を発する表題作をはじめ、乗り捨てられた車のシートに残された血痕が謎を呼ぶ事件など六編を収録した、1991 年刊行の初期作品集。
基本的には警察を舞台にしたミステリものというカテゴリになるのだろうが、そこはさすがに黒川作品である。生粋の関西人の手で描かれる関西人キャラクタの、この活き活き具合たるやどうか。もちろん地道な捜査からしっかりと書き込むリアリティや、捜査員や犯罪者という主役級の人々だけでなく、単なる目撃者や関係者にも血肉を与える繊細な配慮が文章のそこここに埋め込まれているが、やはり読んでいて文句なしに楽しいのは登場人物たちが織りなすボケとツッコミの応酬である。なにせこんな感じだ。
「どないもこないもあるかい。盗んだやつを追いかけるがな」
「それで、追いかけて?」
「これも持って行け、いうてブラジャーを投げつける」
やはり関西に生まれた以上、「ボケ・ツッコミ」は息をするのと同じ感覚なんでしょうか。
ちなみに本書のタイトルにもなっている「テトロドトキシン」とは、いわゆるフグ毒のこと。
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