先週の土曜日は、毎年新年恒例の代理店会議に出席。これは年一回の恒例行事で、私を雇用する北京の会社の販売代理店の代表者(総経理クラス)が北京に集まり、私を雇用する北京の会社の去年および今年の動向や、これから開発、販売予定の新製品の説明、現在市場の状況、そこで発生している問題点などを話し合う重要な会議である。肩書き的にはエライ私も当然出席せねばならない。
私の役割は現在開発中で今年発売される予定の新製品に関する一時間ほどのプレゼンテーションと、技術的なアドバイス、各種ヒアリングなど。この会議も中国に来てこれで五回目。さすがに過去四回もやっていれば慣れたもので、プレゼン資料の作成や発表自体は大きな問題もなくつつがなく終了したが、相変わらず自己主張の強い中国人の忌憚ない(というかなさ過ぎる)質問や意見に応じるのは、まあこれも年に一度回ってくる私の役目とは言え、やはり猛烈に疲れる。
朝から昼食を挟んで夕方までみっちりスケジュールの詰まりまくった会議もなんとか終わり、ほっとする間もなく夜には当然宴会が待っている。そして中国で宴会と言えば白酒である。最初の乾杯ののち、しばらくは大人しく飯を喰っていたが、場が和み崩れてくると、円卓のあちこちで一気に乾杯合戦が開始される。中国滞在五年を過ぎてこの白酒乾杯合戦もようやく慣れたとは言え、しかしなにせモノがアルコール度数 56% の劇物指定品である。できれば避けたい。正直言って遠慮させていただきたい。しかしこの会議はこちらがホストの身。受けないわけにはいかないのだった。
最初は基本的には各テーブルを回り、いやいや今日はお疲れ様でした、飲んで喰って楽しんでってくださいな、などと簡単な挨拶をして乾杯のかけ声とともにショットグラスの白酒を一気に飲み干すわけだが、当然ながらそれだけで終わるわけがない。八卓あるテーブルを回り終え(つまりこの時点で少なくとも八杯の白酒を一気で飲んでいるわけである)、やれやれと自分の席に戻ってくると、今度は向こうからやってくる番である。一人二人ならまだいいが、なにせ今日は人が多い。正に門前列をなすの如く、乾杯待ちの人間が待ち行列を作って待機している。その一人一人と乾杯、乾杯、そして乾杯の嵐。アルコール度数 56% の劇物が、体の内側から肉体を焼いていく。
しかし私には心強い味方がいるのである。一作年のこの席で発見した、この無限白酒地獄から救われる唯一の方法。スイカである。あの白酒を飲んだ後に口の中にいつまでも残る独特の臭いや胃が焼けるような気持ち悪さが、飲んですぐさまスイカをシャリシャリと喰えば、それらがなぜかすっきりと解消されるというマジカル・ミステリな白酒乾杯地獄撃退法。思い出した私は乾杯してはスイカを喰い、そしてまた乾杯してはスイカと、エンドレスに繰り返す。よーし、どこからでもかかってきやがれ中国人ども。この赤く輝くスイカ様が眼に入らぬか。
ということで今年も年始め白酒地獄をスイカでなんとか乗りきったわけだが、ちなみに今年飲んだ白酒は合計 37 杯であった(ちゃんと数えていたのだ)。これがどれくらいのアルコール量になるのか。
白酒乾杯用のショットグラスがどれくらい入るのか正確なところは不明だが、仮に一杯 10ml として、37 杯で合計 370ml。飲んだ総量としては大したことはないが、なにせ白酒はアルコール度数が異常に高い。比較としてビールのアルコール度数を 4% だとすると、白酒とのアルコール度数比は 14 倍である。したがって 370ml の白酒を飲んだということは、ビールを 5.18 リットル飲んだのと同じくアルコールを摂取したということになる。
ううむ、ビール 5 リットルですか。アルコール以前に、それだけ飲めば物理的に胃と膀胱が破裂しそうな量だが、これまでの経験上、ビールを 5 リットル飲んだ日には間違いなくヘロヘロになる。大ジョッキでグビグビいくのとショットグラスで一気に飲むのとでは酔いの回りも微妙に違うのかも知れないし、ビールを飲んでスイカを喰っても腹の膨れるスピードに加速がつくのとトイレが近くなるだけで、酔っぱらい解消にはちっとも効かないような気がするが、しかしこの三年の経験から、白酒を飲んだ時にスイカを喰うのは明らかに酔っぱらい防止に効果がある。これを突き詰めれば、もしかしたら画期的な悪酔い予防薬を開発できるのではなかろうか。医学系の研究者のどなたか、真面目に研究していただけまいか。薬の開発がダメだったとしても、イグ・ノーベル賞ぐらいは取れるかもしれませんぜ。