四川大地震の発生から一週間。これまでに地震による死者は三万四千人を超えた。しかし四川省内では未だ一万人近くの人たちが生き埋め状態にあり、さらに行方不明者も三万人を超えることから、当初の予測である死者五万人を大幅に上回る七万人超に膨らむ可能性が出て来たとのこと。また、現時点での負傷者は二十四万人、避難所生活を送っている人は四百八十万人だそうである。未曾有の、という言葉がこれほど陳腐に聞こえることも、そう無い。
中国国営テレビ(CCTV)では、連日通常の番組をすべてキャンセルして、終夜大地震に関する特別番組を放送している。現在のところ、被害状況のレポートや奇跡の救出劇、中国各地での義捐金や救援物資の受け渡しを報じるという内容が主だが、たまに現地からの生中継のレポートが挟み込まれることがある。正に瓦礫の山と化したあまりに悲惨な被害現場の映像は、どこか無力感と諦観を感じさせる。
そうした CCTV の特別番組につけられたのが「抗震救灾、众志成城(抗震救災、衆志成城)」というタイトルである。「震災に立ち向かい、被災者を救援しよう。皆が力を合わせれば、困難に立ち向かうことができる」という意味だろうか。「衆志成城」は、かつて毛沢東が詠んだとされる革命詩詞の「井崗山」の一節だそうだ。湖南省で失脚した毛沢東らの中国工農紅軍は、1928 年に江西省の井岡山(井崗山)に籠り、自給自足の解放区を樹立して「長征」に備えた、とされている。なので原典では「人々の志で城は成る」と言う意味。
今日 5/19 から三日間、四川省大地震の犠牲者に哀悼の意を示すため、国家をあげて喪に服する期間と決めた。期間中は各地で半旗を掲げるほか、あわせて映画館やゲームセンターの営業など、各種娯楽活動を停止することも決定。また、予定されていた北京五輪の聖火リレーも延期するという。国内のテレビ放送もほとんどが上記の CCTV の特別番組のような内容に統一されているほか、外国の一部の放送も三日間休止される。
ちなみに我が家のケーブルテレビでは、CNN や BBC はそのまま放映されているが、なぜか NHK は見ることが出来なくなっていた。娯楽番組と見なされたらしい。外国人向けマンションとは言え、こういうことは問答無用である。とりあえずネットがあるからなんとかなるとしても、ニュースが見られないのはやはり困る。まあこうなったら仕方がないが。
さらに政府は今日、地震発生時刻の午後二時二十八分に三分間、黙祷することを中国全土に呼びかけた。
私を雇用する北京の会社でもその時刻、従業員全員が仕事の手を休め、立ち上がって黙祷を捧げた。表では道路を通る車やトラックが一斉にクラクションを鳴らし、防災のサイレンが鳴り響く。一週間前、たったこの三分の間に、いったいどれほど多くの人たちが命を落としたか。中国中の時が止まった今この瞬間、私ができることは、ただひたすら静かに祈ることのみ。若い女性スタッフは黙祷中、感極まって泣き出してしまった。「すみません」と彼女。謝ることは一つもない。皆気持ちは同じである。
城どころか人々の住む家も学校も病院も、街の何もかもが破壊され、いまだ多くの人が瓦礫に埋もれている被災地では、「成城」への道は果てしなく険しく、長い。これからが更に試練である。
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