北京で過ごす初めての夏休み。とは言っても特に大きな予定もなく、毎日あちこちブラブラしているだけだが、ここ二三日の出来事を以下に。
まずは万里の長城。私はすでに過去に何度か行ったことがあるのだが、かみさんはまだということで、この休み中にどうにかして行ってみたいと思っていた。しかしなにせ万里の長城は市内から約 70km ほどあり、結構遠い。タクシーをチャーターするか、あるいは近所のバス停から出ている遊覧バスにでも乗るかと考えていたら、会社の同僚から万里の長城まで連れて行ってくれると電話がかかってきた。ありがたいことである。もちろん一も二もなくお言葉に甘えさせていただくことに。
大渋滞の以内を抜け、高速道路を快調に飛ばして八達嶺に到着。北京近郊に万里の長城観光スポットはいくつかあるが、八達嶺はその中でも最もメジャーなところで、駐車場の周りにはいかにも観光地的な無数のお土産屋やレストランが立ち並ぶ。世界に冠たる世界遺産としてはなんとも俗っぽいところだが、まあこれもまたいかにも中国らしいと言えばそうかもしれない。人出もさすがに多く、平日にもかかわらず多くの観光客でにぎわっている。人混みを抜けて登坂口にたどり着き、さっそく登り開始。
この日は曇りで多少気温が低かったにもかかわらず、ここ数日の北京と同様に湿度がやたらと高く、登り始めるとすぐに汗だくになる。ところどころほぼ垂直に近い急階段を登っていると、猛烈に汗が噴き出して着ていたシャツはあっという間に汗みどろだ。こりゃ下手すると熱射病にでもなるかも、と思い多少ペースをゆっくり目に登っていくと、ところどころで暑さでダウンした人たちが階段に座って死んだようにバテている。ここは真夏の炎天下には来るところではないのかもしれない。約 2km の道程をなんとか歩き通し、ようやく最終地点にまでたどり着いた。
それにしてもここに来るたびに思うのは、よくもまあ千年も昔の重機も何もない時代に、こんなとんでもない物を作ったもんだということだ。尾根から尾根へ、雲にかすんだ山の向こうから、あちらの地平線の彼方まで。馬どころか人ですらようとして近づけなかったであろう険しい山中で、数百年かけてレンガを一つ一つ積み上げて何千 km にも及ぶ建造物を作り上げたのである。元々は北方の騎馬民族の侵略から守るために作ったという。人間が抱く偏執的な猜疑心や恐怖感は、時にとてつもないパワーを生み出すということか。
別の一日で、北京市内の知り合い宅を訪問。知り合いと言っても実は知り合いの知り合いで、北京赴任前に日本で中国語を習っていた時の先生の友人。北京に来たら是非遊びに来てくれと連絡をもらい、こちらも夏休みでちょうど良かったので、さっそくお邪魔させていただくことになったわけだ。
訪問先は北京師範大学の敷地内にある住宅。ご夫婦ともにこの大学の教授で、旦那さんの方は副学部長という要職に着いている、言ってみればエリート一家だ。このご一家は日本での生活が長く(福岡と千葉に住んでいたらしい)、この九月から高校に進学することになったお子さん共々日本語は非常に堪能だ。ちなみに日本以外にもドイツで数年間過ごしたこともあったそうで、ご一家そろってドイツ語と英語もできる。家の中での公用語はもちろん中国語として、ときおり英語やドイツ語、そして我々向けに日本語が飛び交うわけだ。なかなかすごいことになっている。
リビングでしばし歓談後、お昼になったのでそろそろおいとましようと思ったら、学内のレストランを予約しているというので、またもやお言葉に甘えてご馳走になることにした。北京ダック、蒸し魚、蒸し餃子など、あとからあとから料理がどんどん並んでいく。学校の中のレストランということで実はそれほど期待していなかったのだが、さすが名門大学の学食だからか、どれもとても美味しい。
食事後に大学構内を案内していただいた。広い敷地内にはたくさんの講堂や体育施設をはじめ、郵便局や銀行、スーパー、レストラン、学生と学校職員の住居などが揃っており、一つの大きな街のようになっている。普通に生活する分には学内でほとんど事足りるということだ。また現在は夏休み中にもかかわらず、実家に帰らずに残って勉強している学生が非常に多いのには驚いた。教室をのぞいてみると、皆教科書や参考書などを広げて一心不乱に勉強している。朝から夜まで丸一日勉強している者も多いという。人口の多い中国では当然ながら競争が非常に激しく、こうして学生のうちから努力してスキルを上げておかないと、「上」にのし上がることはできないという。まったく、日本の大学生にも少しは見習ってもらいたい、と、かつてだらけまくった学生生活を送った奴には言われたくないだろうが。
夏休みも残りあと少し。明日は故宮に行ってみようと思う。